仙石原のすすき草原の前を通る県道75号を走るレヴォーグ。すすき草原は箱根名物のひとつである。 Photographs●平賀正明
SUBARU on the Road
自然とアートを巡る
ショートトリップ
神奈川県箱根町~小田原市
仙石原のすすき草原の前を通る県道75号を走るレヴォーグ。すすき草原は箱根名物のひとつである。 Photographs●平賀正明
春の陽光がさす朝、関東随一の温泉地として、また美術館の町として名高い箱根へと向かった。今回訪ねるのは、国立公園の森にとけこむようにあるポーラ美術館。午後は箱根の峠道を下り、おだやかな海辺の町・小田原へ。相模湾を見渡せる丘に立つ小田原文化財団 江之浦測候所を目指す。趣の異なるふたつのアート空間でアートに触れながら、山合いと海沿いの両方で、レヴォーグGT-H EXでの快適なツーリングを愉しんだ。
箱根の豊かな自然に佇む
森の美術館でアートを鑑賞
ふと目にした「部屋のみる夢」という名の展覧会が気になっていた。開催しているのは箱根にあるポーラ美術館。春先の箱根に出かけるなら、レヴォーグを走らせて、ドライブも愉しみたい。箱根からクルマで1時間ほどの小田原には以前から訪ねてみたかった江之浦測候所がある。この2つのアートスポットを巡る、心ときめくドライブプランを立てた。少しばかり駆け足の旅になるが、頼もしいレヴォーグが相棒だから大丈夫だ。
御殿場を起点にまずは箱根を目指し、乙女峠を上る。左手にそびえたつ富士山が垣間見えるワインディングロードのドライブを愉しみ、乙女トンネルを抜けると、箱根町に入った。
乙女峠(国道138号)からは富士山が見える。
箱根裏街道と呼ばれる道(国道138号)を仙石原の交差点で右折すると、ミュージアムが点在し、人どおりもある賑やかなエリアに出る。さらに奥へ、奥へと進むと、木立の中にとけこむように建つモダンな建築が現れた。最初の目的地であるポーラ美術館だ。
パーキングにレヴォーグを停め、アプローチブリッジをエントランスへと進む。エントランスへ向かい軽く傾斜しているのだろう、歩みが軽やかになる。まるで「いつも背負っている重たいものを手放して入ってください」と、森の精に無言で案内されているかのようだ。ポーラ美術館の建物はエントランスが最上階で、エスカレーターで降りた地下階が展示室という構成で、それゆえ森の中に潜んでいるような佇まいになっているのだと気づく。
木々に包まれるようにあるポーラ美術館。アプローチブリッジを通ってエントランスへ。
ガラス面から自然光を取り込む館内。エントランス脇で佐藤忠良作「カンカン帽」が出迎える。
早速、企画展「部屋のみる夢」に入場する。そこは、9組の作家による「部屋」に分かれていて、「部屋」にまつわるアートが展示されている。例えば、画家ベルト・モリゾの部屋では「テラスにて」「ベランダにて」といった住まいの光景を描いた油彩、現代アーティスト髙田安規子・政子の部屋では「Open/Closed」という大小2つのドアの間にいくつもの鍵と鍵穴が並ぶインスタレーションを鑑賞できる。それぞれの作家の部屋を行ったり来たりするうちに、いつしか常設の作品が掲げられた展示室に導かれると、そこにはクロード・モネやピエール・オーギュスト・ルノワールの名画が待っていた。
企画展「部屋のみる夢-ボナールからティルマンス、現代の作家まで」の出入り口。ここから入ると、作家ごとの部屋に作品が展示されている。
アンリ・マティスの部屋には「室内:二人の音楽家」をはじめ油彩の名画が掛かる。
佐藤翠+守山友一朗の部屋。二曲屏風などふたりの画家による新作、共作が並ぶ。
印象派をはじめとした絵画を展示した常設スペース。
日常を忘れる、まさに夢を見るような展示を見終わって、レストランで昼食をとり、屋外へ出た。ポーラ美術館にはもうひとつ、「森の遊歩道」というアートスポットがあるのだ。ヒメシャラ、ブナ、ヤマボウシなどの木々が茂る木立の中にアート作品を展示する、いわばリアルな森の美術館。点在する彫刻や現代アートをひとつずつ愛でながら森の散歩を楽しんで、この美術館をあとにした。
森の遊歩道は全長1kmほど。木々の中に点在するアート作品を散策しながら楽しめる。
KEIKO+MANABUの「Hummin’ Bloom」。
板東優の「アダモとエヴァ」。
板東優の「雪の子Ⅱ」。
ロニ・ホーンの「鳥葬(箱根)」。
人気の高い定番メニュー「オリジナルシーフードカレー」。クリーミーでマイルドな味。
クロード・モネの名作に見立てたデザート「睡蓮」。ライチのジュレにノンアルコールのスパークリングワインが注がれる。
地上階にある「レストラン アレイ」。アート鑑賞後、自然光のふりそそぐ空間で食事をとることができる。
江之浦の自然を情景とした
建築とアートの壮大な
ランドスケープ
再び、レヴォーグを走らせる。次なる目的地・小田原を目指して、およそ1時間のドライブだ。国道138号を道なりに進むと国道1号に合流し、宮ノ下、塔之沢といった情緒ある温泉宿の立ち並ぶ界隈を通り過ぎていく。山合いならではのワインディングが続き、レヴォーグのハンドリングの良さを味わいながら箱根の山を下りきると、平坦でまっすぐな道程にかわる。
町は小田原市内となり、国道1号を早川口で右折して国道135号を進むと、ぱっと視界が開けて、左手に太平洋が現れた。ここから先は打って変わって、湾岸線を走るドライブだ。レヴォーグのなめらかな走行が続き、ドライブが心地良い。
小田原市内を通過し、江之浦へと向かう海岸線のドライブ。
根府川で右へ曲がり、県道740号に入る。小田原名産であるミカンの直売所がところどころに立ち並ぶのどかな風景の中、ひたすら道なりに前進し、丘を上っていくと、小田原文化財団 江之浦測候所にたどりついた。
小田原文化財団 江之浦測候所は「古代人が天空のうちにある自身の場を確認する作業をしていたように、天空を測候することにもう一度立ち戻ってみる」こと、そしてそれは「アートの起源でもある」ことを理念に、現代美術作家の杉本博司氏により設立された。2017年のオープン以来、壮大なランドスケープに魅了された人々が繰り返し訪れる場所となっている。見どころのひとつは、冬至の日の出、夏至の日の出、春分・秋分の日の出、それぞれの軸線に合わせて建造物が配置されていることだ。
室町時代に建てられ、近年まで根津美術館正門として使用されていた明月門。根津美術館建て替えの際に寄贈され、江之浦測候所の正門として再建された。
正門・明月門をくぐる。施設内に順路はなく、自由に回れるので、まずは「夏至光遥拝100メートルギャラリー」と「冬至光遥拝隧道」を巡ることにした。その名のとおり、ギャラリーは夏至の朝、隧道は冬至の朝、太陽が昇る位置に配されている。夏至と冬至でこれほど太陽の位置が変化するのだと、建造物の配置で実感できる。
ここにあるのは建造物だけではない。「竹林エリア」と記された矢印の案内に導かれ、森の奥へと進むと、「化石窟」と名付けられた元は農具をしまう小屋だった展示室が現れた。展示されているのは、数億年前の古代化石や、この小屋に残されていた農具だ。竹林エリアには「数理模型0010」など杉本氏の立体作品が配置されているのも面白い。
夏至の朝日の軸線に建つ夏至光遥拝100メートルギャラリー。内部には、大谷石で覆われた壁に杉本博司氏の代表作「海景」7作が掲げられている。
広島原爆投下の爆心地近くにあった石造宝塔の塔身部分。花が一輪、たむけられている。
円形石舞台から冬至光遥拝隧道を見る。
隧道の中ほどには明かり取りの光井戸が。
杉本氏が長年蒐集してきた化石コレクションが並ぶ化石窟。
2022年春に奈良の春日大社から御霊を勧請した「甘橘山 春日社」を拝観し、「みかん道」を上って全様を一周して、最後に「光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席」に向かった。光学硝子舞台は隧道と平行に建っていて、冬至の朝は、この硝子の舞台に太陽が差し込んで輝くのだろうと想像が膨らむ。
しばらくの間、石造りの観客席に腰かけ、光学硝子の舞台と、背景に広がる相模湾を眺めていると、だんだん太陽の光がオレンジ色の夕日にうつりかわるのに気づいた。
時空を超越した空間を出て、日常に戻る時間がきたのだ。
レヴォーグのエンジンをかけ、丘を下り、森の美術館と海辺のアート空間を巡るショートトリップは、帰路についた。
2022年春に奈良・春日大社より御霊を勧請し創建された甘橘山 春日社。
相模湾を臨み、冬至光遥拝隧道と並ぶように建つ光学硝子舞台。古代ローマ円形劇場写し観客席に腰かけて、いつまでも眺めていたい美しい光景だ。
乙女峠~ポーラ美術館~小田原文化財団 江之浦測候所
ポーラ美術館
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
TEL. 0460-84-2111
OPEN 9:00~17:00(最終入館16:30)
無休
企画展「部屋のみる夢―ボナールからティルマンス、現代の作家まで」は本年7月2日まで開催
https://www.polamuseum.or.jp/
小田原文化財団 江之浦測候所
神奈川県小田原市江之浦362-1
TEL.0465-42-9170
OPEN 1日2回、事前予約、入れ替え制
(10:00~13:00、13:30~16:30)
事前予約制(財団HPより予約)
火・水休 年末年始および臨時休館日あり
https://www.odawara-af.com/
注)新型コロナウイルス(COVID-19)の感染予防のため、営業時間・営業内容に変更が生じる場合があります。事前に各スポットへお問い合わせください。
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