程よい傾斜が気持ちよい、御坂みち旧道。タイトなコーナーが所々にあるので、対向車には十分に注意して走りたい。 Photographs●小川宏子
SUBARU on the Road
文豪も通った、
情緒あふれる
峠道をゆく
山梨県南都留郡[みなみつるぐん]
程よい傾斜が気持ちよい、御坂みち旧道。タイトなコーナーが所々にあるので、対向車には十分に注意して走りたい。 Photographs●小川宏子
暖かい陽気に誘われて、富士山のお膝元である山梨県南都留郡へ向かった。今回のドライブのメインロードは、「御坂[みさか]みち」と名のついた峠の旧道だ。2.4L BOXERエンジン搭載のSUBARU BRZは、上り坂でもアクセルを踏んだ分だけ伸びのある加速フィールを味わえて、クルマとの一体感が心地よい。峠道を上るにつれて人の気配はなくなり、代わりに鹿や鳥の鳴き声がちらほらと聞こえてくる。峠の先には、多くの文人が訪れた茶屋があるというから行ってみよう。そう思いながら、ドライブ心をくすぐるワインディングに差し掛かった。
富士山の
ビューポイントを巡り、
御坂みちへ
中央自動車道 河口湖ICを降り、河口湖大橋を渡って 一宮御坂[いちのみやみさか]方面へ約10分。日本のシンボル、富士山が背後にそびえ立っていた。日本に住んでいる誰もが、一度は富士山を眺めたいと思ったことがあるのではないだろうか。日本の文化芸術にも大きな影響を与えてきたことが世界的に評価され、「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」として2013年には世界文化遺産に登録された。
新緑のトンネルを走る、マグネタイトグレー・メタリックのSUBARU BRZ。
そんな富士山を仰ぐために、河口浅間[あさま]神社の遥拝[ようはい]所「天空の鳥居」へ立ち寄ることにした。ここ浅間神社は富士山をご神体として、遠いところから拝む「遥拝」、実際に山に登って修行をする「修験[しゅげん]」、参拝する「登拝[とはい]」の富士山信仰の三形態を体験できる唯一の神社だ。遥拝所は、浅間神社のふもとから高台へと続く林道をクルマで7分程走ったところにある。遮[さえぎ]るものがない絶景のなか、美しい冠雪[かんせつ]の富士山と対面することができた。あまりの迫力に言葉を失い、ただ畏敬の念に打たれた。少々雲が掛かっているのもまた味わいがある。
河口浅間神社の遥拝所「天空の鳥居」は神秘的なフォトスポット。
富士山パワーをチャージしたところで、御坂峠を目指して先を行くことに。「御坂みち」と呼ばれる国道137号を北上し、やや混みがちな新御坂トンネル手前を右折すると、これまでの交通量が嘘のように減った。かつては国道137号だったこの県道には「御坂みち」の名が今も残り、時が止まったような神秘的な空気感を醸している。タイトなコーナーが連続する上り坂は、積極的にシフトチェンジしながら意のままに操る愉しさを味わう。時折ガードレールの無いところも見られるので、注意しながらステアリングを慎重に切っていく。アクセルを踏むたびに響くエンジンサウンドが心地よい。SUBARU BRZならではの低いアイポイントやステアリングの軽やかさも相まって、スポーティなドライブフィールを愉しめた。峠道を15分程上ってきただろうか。木々に包まれていた視界が開けて、標高約1300mの高所に情緒あふれる木造の建物が見えた。
緑が生い茂る河口湖畔も爽やかでドライブにおすすめ。
峠道を進むにつれて標高も高くなるので、取材時にはまだ冬木のままのところもあった。遅めの春の訪れが待ち遠しい。
太宰治が逗留[とうりゅう]し、
作品の舞台にもなった天下茶屋
南に富士山と河口湖を一望できるこの場所に、天下茶屋が建てられたのは1934年の秋のこと。当時は「富士見茶屋」、「天下一茶屋」などと呼ばれていたこともあったそうだが、ジャーナリストの徳富蘇峰[とくとみそほう]が新聞に「天下茶屋」と紹介したことがきっかけで、この名が定着したのだとか。天下茶屋には多くの文人が訪れたが、なかでも井伏鱒二[いぶせますじ]と太宰治[だざいおさむ]の滞在は特に有名だ。1938年の夏に井伏鱒二の勧めで天下茶屋を来訪した太宰治は、茶屋の二階にある六畳間に約三か月間逗留[とうりゅう]し、その間のできごとを小説『富嶽百景[ふがくひゃっけい]』にしたためている。
富士見三景のひとつとされる天下茶屋からの眺望。
現在の天下茶屋では、「いもだんご」や「木の実みそ田楽」などの軽食のほか、山梨県のソウルフードであるほうとうをいただくことができる。太宰も食したという味が気になり、「天下茶屋 きのこほうとう鍋」を注文した。「メニューの品数が少ないのは、地産地消で旬のおいしいものを厳選して提供することにこだわっているから」と話す二代目店主の外川満[とがわみつる]さん。お客さんと気さくに談笑する姿が印象的な外川さんは、太宰などの文人の逗留について「何もないのんびりしたところだから、集中して執筆と向き合う環境としてはベストだったのかもしれないね」と推察した。しばらくすると、二人分でもおかしくない量のほうとう鍋がやってきた。できたての温かい湯気、色鮮やかな見た目と香ばしさが食欲をそそる。もちもちの麺と山菜、きのこのバランスが絶妙で、素材を生かした優しい味に癒される。運転に集中して忘れていた空腹が、一気に思い出されて、ぺろりと平らげた。
にこやかに笑う、天下茶屋二代目店主の外川満さん。
「天下茶屋 きのこほうとう鍋」(1,450円・税込み)を前に笑みがこぼれる。
茶屋の向かいの高台に1953年に建てられた文学碑。碑面には「富士には月見草がよく似合ふ」と刻まれている。6月19日の太宰治生誕日には「山梨桜桃忌」が行なわれる。
※感染予防のため、2022年度の山梨桜桃忌は天下茶屋の近親者のみで行ないます。当日の様子はHPにて後日公開予定です。
食後に、茶屋の二階にある「太宰治文学記念室」を覗かせてもらった。ここは太宰が滞在した部屋が復元され、実際に使用していた机や火鉢がそのまま残されている。木造ならではの心安らぐ木の香りや床のきしみを味わいながら、この貴重な空間で太宰文学の一端に触れることのできる幸せをかみしめた。
天下茶屋の人々をモデルに描いた『富嶽百景』の初版本(1943年・新潮社)。太宰文学記念室に展示されている。
太宰治が愛用した「徳利と盃」。
太宰治の滞在していた部屋が天下茶屋二階に復元されている。床柱は当時のものをそのまま使用。
逗留時、太宰は未完の長編小説『火の鳥』を執筆していた。
河口湖大橋~河口浅間神社 遥拝所 天空の鳥居
~御坂峠 天下茶屋
河口浅間神社 遥拝所 天空の鳥居
山梨県南都留郡富士河口湖町河口1119-2
TEL:0555-76-7186
https://asamajinja.or.jp
※夜間の立ち入りはご遠慮ください。
※スマートフォン以外の撮影機器で撮影する場合は「富士山遥拝所応援会員証(500円・1年間有効)」が必要です。売店にてご購入の上、撮影してください。
※場内での三脚の使用はご遠慮ください。
御坂峠 天下茶屋 / 太宰治文学記念室(天下茶屋2階)
山梨県南都留郡富士河口湖町河口2739
営業時間:10:00-17:00
休日:(天下茶屋)年中無休
※冬期は天候により休業することがあります。
(太宰治文学記念室)4月上旬~12月上旬の営業期間内は無休、冬期は休業
TEL:0555-76-6659
https://www.tenkachaya.jp
※天下茶屋をご利用のお客様は無料で記念室をご覧いただけます。
注)新型コロナウイルス(COVID-19)の感染予防のため、営業時間・営業内容に変更が生じる場合があります。事前に各スポットへお問い合わせください。
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