入母屋[いりもや]造りの主屋が、由良川の流れに並行して南向きに立ち並ぶ「美山[みやま]かやぶきの里」。民宿に泊まった翌朝、クロストレックで次の目的地へ。
Photographs●小川宏子 Text●塩田典子
SUBARU on the Road
日本の原風景をたどり、
盛夏の緑に包まれる
京都府南丹市〜滋賀県高島市
入母屋[いりもや]造りの主屋が、由良川の流れに並行して南向きに立ち並ぶ「美山[みやま]かやぶきの里」。民宿に泊まった翌朝、クロストレックで次の目的地へ。
Photographs●小川宏子 Text●塩田典子
京都市右京区の市街地から国道162号、別名・周山街道を北上すると、 茅葺きの古民家が雛壇状に連なる「美山[みやま]かやぶきの里」が現れる。あたかも日本の原風景そのもので、どこか懐かしい心地に。茅葺きの民宿に泊まり、ふるさとの夏休みを味わったら、クリスタルブラック・シリカのクロストレックで若狭街道を東へ。琵琶湖畔を北上すれば、緑陰のトンネルで涼を感じることも!
茅葺きの民宿に泊まり
ふるさとに思いを馳せる
祇園祭も近い7月初旬、京都市中心部から国道162号(周山街道)へ入り、清滝川沿いに北上するクリスタルブラック・シリカのクロストレック。北山杉の林が両サイドに迫るワインディングロードを軽やかに駆け抜ける。低重心で揺れが少なく、ボディの剛性が高く安定した走りができるので長距離ドライブも何のその。途中、道の駅 美山ふれあい広場の「美山[みやま]のめぐみ牛乳工房」で休憩を。美山町内の酪農家が生産する生乳を85℃で15分間殺菌した、美山牛乳がベースのジェラートやソフトクリームは、ミルキーで濃厚な風味。旬の果物や黒豆、山椒といった美山の恵みがふんだんに使われ、夏はブルーベリーやトマトが登場する。
稲荷神社裏手の散策路を上って展望台へ。深緑の合間から茅葺きの屋根屋根が顔を見せる。
美山のめぐみ牛乳工房のソフトクリーム400円(右)、ジェラートダブル(ブルーベリー、たまごプリン)450円(左)。
由良川に沿って府道を進んだ左手に、杉の生い茂る山を背にした茅葺き集落が見えてきた。美山町の北集落「美山かやぶきの里」には約230年前(江戸中〜後期)から約150年前(明治期)に建てられた茅葺き民家が多く残され、39棟が茅葺き屋根の建物。伝統的建築物の保存状態と景観の美しさから平成5(1993)年、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。集落内は一般車進入禁止だが、民宿2軒の宿泊者に限り駐車場までの走行が認められている。
かやぶきの宿 久やの地鶏のすき焼き。引き締まった肉質の地鶏を野菜や豆腐とともに味わった。
建物は築150年ほど。茅葺きに瓦の庇が付く。
北山型茅葺き民家の仕組みや防火設備の放水銃について解説していただいた、当主の中野忠樹さん。
クロストレックを美山民俗資料館横の駐車場に停め「かやぶきの宿 久や」へ。こちらは一棟貸しで、帰省してきたかのような懐かしさに包まれる。囲炉裏を切った大広間から続く縁側の先には庭の緑が映える。畳の部屋からは広縁越しに茅葺き屋根が望め、横になれば風が渡り、ついうとうと……。ここは当主・中野忠樹さんの生家。「茅葺きの家は夏は涼しく冬は薪火で暖か。厚く重ねられた茅は通気性・断熱性に優れ、吸音効果もあって静かで住みやすい」
室内はカチカチと時を刻む柱時計の音が響くだけ。テレビもないが気にならない。「茅葺き屋根が次々に瓦や鉄板葺きへと変わっていった平成初期、我が家も決断を下す寸前に保存地区の選定を受けました。このままでは茅葺き集落が廃れかねない。この景観が評価されるのなら、都市と農村との交流拠点になろうと舵を切った」と話す。選定当初、11棟の屋根がトタンに覆われていたが、そのうち9棟が茅葺き屋根に復元され、集落の整備が進んだ。
太い梁が渡り、天井の高い囲炉裏の板の間。昔は囲炉裏で薪が燃え、鍋をかけたり、かきもちや銀杏を焼いておやつにしたりしたそう。
鯖街道で西近江へ。
伝統の味と工芸に出合う
夕食はこの集落で昔からもてなし料理であった地鶏のすき焼き。昔はどの家でも鶏を飼い、ハレの日に親鶏をさばいて振る舞った。今は町内で生産される平飼い卵の親鶏を一羽分使い、鶏ガラスープ仕立てのすき焼きに。内臓やキンカンなどあらゆる部位が入り味や食感もさまざま。白菜や玉ネギ、エノキなど野菜たっぷりで、あっさり味なのでいくらでもいける。
ウグイスのさえずりで目覚めた翌朝は当主に集落を案内してもらい、宿を出て再び国道162号を北上、福井の小浜から若狭街道の熊川[くまがわ]宿を経て朽木[くつき]宿へと向かった。このルートは福井から京都へ鯖が運ばれた鯖街道に当たり、朽木周辺には鯖寿司の店が点在する。
京都や安曇川[あどがわ]で寿司職人をしていた初代と二代目が作る「栃生梅竹[とちううめたけ]」の鯖寿司は生っぽさが信条。静岡・焼津産の塩鯖にひと仕事を施し、注文を受けてからさばいて寿司飯と合わせるから程よい締め加減と寿司飯との一体感が絶妙。鯖はサイズによって4ランクに分けられ、1尾1kg以上の特大トロ鯖を使う極上は肉厚で脂がのり、レアな食感。店頭でしか手に入らない出来立ての美味しさに魅了された。
栃生梅竹の極上鯖寿司ハーフ2,500円(イートイン)。
販売店の隣に食事スペースがあり、お茶とともに出来立てを味わえる。
店頭では、注文を受けてから押箱に鯖や寿司飯を詰め、押し固める様子を垣間見ることができる。寿司飯は県産のコシヒカリ。
琵琶湖北西岸の安曇川周辺は350年前から流域の竹を使った扇骨の生産が盛んで、今でも国内の約9割が作られている。34工程が分業され大半が手作業と聞き、工房のひとつ「すいた扇子」を訪れた。店主の吹田政雄さんはこの道60年の熟練職人。天日干しにより伸縮した仲骨を削り直す、締直しを見せていただく。1300枚の仲骨を1本の刺し棒に刺し、板のようにして包丁やノミを使い表面をツルツルになるまで削っていく。手作業でないと優しい木の感触が生まれない。「ハンディファンが巷に溢れているけれど、扇子は竹のしなりによる柔らかい風と竹に染み込ませた香料が涼感をもたらす。日本のいいものがなくなりつつあるが、それは日本が日本でなくなることに等しい」と吹田さんは憂う。
すいた扇子の夏扇。男性用白竹1,500円(メダカ)、女性用うねり4,000円(兎、てっせん)。
砂利敷きの上で白干しする扇骨。
仲骨を板状に並べ包丁で削る締直しの作業。
刺し棒に仲骨を通す吹田政雄さん。
近江八景や安曇川の鮎が描かれたオリジナル扇子も販売。
琵琶湖畔をさらに北上すると延長約2.4kmに渡り約500本が立ち並ぶメタセコイア並木に到着。走り抜けると、緑陰のトンネルが目から涼を感じさせてくれた。
高島市マキノ農業公園 マキノピックランドを縦貫する県道287号を彩るメタセコイア並木。高さは約25mあり、木漏れ日が降り注ぐ。
京都市中心部〜美山ふれあい広場→美山かやぶきの里→
栃生梅竹→すいた扇子→メタセコイア並木
メタセコイア並木
滋賀県高島市マキノ町蛭口~牧野(カーナビで目的地設定する際は「マキノピックランド」0740-27-1811を登録)
TEL:0740-33-7101
(公益社団法人びわ湖高島観光協会)
栃生梅竹(とちううめたけ)
滋賀県高島市朽木栃生275-1
TEL:0740-38-3297
OPEN 10:30~17:00
月休(祝日の場合は翌休)
すいた扇子
滋賀県高島市安曇川町西万木62
TEL:0740-32-1345
OPEN 9:00〜17:00
不定休(要問合せ)
http://suitasensu.com
2024年02月号
ダイナミックな風景の中へ。九州冬の旅
2024年01月号
新潟文学紀行 〜川端康成『雪国』の面影を辿る〜
2023年12月号
水の織りなす美景をもとめて
2023年11月号
SUBARU BRZで訪ねる夢とロマンに触れる旅
2023年10月号
食と自然を愉しむ、秋の満腹ドライブ
2023年09月号
淡路島西海岸サンセットクルージング
2023年08月号
日本の原風景をたどり、盛夏の緑に包まれる
2023年07月号
人々が守り続けた文化と自然が生む絶景
2023年06月号
涼やかなグリーンを求めて
2023年05月号
春を告げる花と富山湾の恵みを探して
2023年04月号
自然とアートを巡るショートトリップ
2023年03月号
つむがれ、受け継がれていく歴史の道をなぞる
2023年02月号
暮らしが生み出す光の絶景
2023年01月号
古人の歩んだ道と、見上げた空と時代の面影を追いかけて
2022年12月号
旬のごちそうを求めて冬の安芸へ
2022年11月号
四国遍路~1200年以上続く、祈りの旅路を行く
2022年10月号
絶景&美食を堪能する三陸の秋
2022年09月号
東名・新東名SA&PA寄り道ツーリング
2022年08月号
夏をほおばる!
2022年07月号
Tribute to the original cartopia 50年目の“佳いところ”を訪ねて
2022年06月号
文豪も通った、情緒あふれる峠道をゆく
2022年04月号
空と陸の交通ミュージアムを巡る旅
2022年03月号
新しい季節を迎えに
2022年02月号
SUBAROAD体験ルポ『動き続ける伊豆半島〜2,000万年の歴史を走る』の旅へ
2022年01月号
SUBARUがお届けする、まったく新しいドライブ体験SUBAROAD始めました。
2021年12月号
ノスタルジーに浸る、埼玉レトロ旅
2021年10月号
カートピアスタッフおすすめ
グルメ&スイーツ特集
2021年09月号
“走り”を愉しむ旅
2021年08月号
海と山、自然の恵みを味わう
2021年07月号
あの日の夏景色
2021年06月号
煌めく新緑につつまれて
2021年05月号
下町と山の手を結ぶ坂の町をたずねて
2021年04月号
SUBARUで走りたい
絶景のツーリングスポットセレクション
2021年03月号
SONGS on the Road 〜あの時のBGM
2021年02月号
煌めくフルーツラインと彩甲斐街道冬の旅
2021年01月号
身も心もうるおう冬の温泉郷へ
2020年12月号
39年目の八溝山へ、再び
2020年11月号
深まる秋を探しに上州の絶景ラインを行く
2020年10月号
絶景&ご当地の逸品に心躍る!〜中央道SA・PA寄り道ツーリング
2020年09月号
埼玉にある異国を旅する
2020年08月号
夏を感じる。湘南〜西湘ビーチライン
2020年05月号
春と夏の合間で
2020年04月号
春薫る、国東半島から姫島へ
2020年03月号
命の故郷に身を浸して
2020年02月号
氷と雪の織りなす美景を訪ねて
2020年01月号
歴史と伝統が紡ぐ町へ「あいばせ!」
2019年12月号
京町家の宿に住まうように旅する
2019年11月号
この地に受け継がれる
ものづくりの明日を探して
2019年10月号
初秋の魚沼美景を覗く
2019年09月号
山岳絶景と走りを堪能し、古の宿場町へ
2019年08月号
神々が宿る島でパワーチャージ
2019年07月号
彩の国、色巡り
2019年06月号
カミツレの里で、暮らしを見直すビオツーリズム
2019年05月号
海の碧、空の青、川の蒼-土佐の水辺を旅する
2019年04月号
SUBARU BRZで走り抜ける、早春の伊豆半島
2019年03月号
今見たい夜景を巡る
北九州ナイトクルージング
2019年02月号
自然と文化が息づく島根
器めぐりの旅
2019年01月号
思い出とカタチに残る旅
福井ハンドメイド・ツーリング
2018年12月号
ラグーンブルー・パールに誘われて
2018年11月号
森林の宝庫・山梨でヒーリングドライブ
2018年10月号
読書の秋。旅を通じて本との出会いを愉しむ
2018年09月号
再び輝き始めた宮城・沿岸の町へ
2018年08月号
SUBARU XVでたっぷり走る夏の北海道
2018年07月号
茶摘み体験からはじまるお茶づくしドライブ
2018年06月号
フェリーがつなぐ、日本の中のアメリカ
2018年05月号
西海岸の美景ロードを走り異文化が交わる場所へ
2018年04月号
絶景と伝統文化にふれる春色ツーリング
2018年03月号
美しい稜線が連なる山里で春の気配と大地の記憶に出会う
2018年02月号
ふるくてあたらしい、蔵の街で春を待つ
2018年01月号
安全で愉しいドライブを祈る、新春ツーリング
2017年12月号
SUBARU XV 東京タワーめぐり
2017年11月号
WRX STI 秋色探しツーリング
2017年10月号
やわらかく五感をひらく、秋。富山アートめぐり
2017年9月号
高原の涼気と、樹の香にひたる
2017年8月号
2017 Summer HIGHLAND EXPRESS
2017年7月号
豊かな水の恵みが育んだ、ここだけの味を訪ねて
2017年6月号
雨空をたたえて、こけを愛でる
2017年5月号
花と香りをめぐる旅
2017年4月号
スバルのルーツを辿る旅
2017年3月号
暮らしに溶け込む器〜波佐見で春色さがし
2017年2月号
かやぶきの里のアクティブレスト
2017年1月号
首都圏夜景の名所ツーリング
2016年12月号
日本の国石 翡翠に誘われて
2016年11月号
天気と季節の境目にて
2016年10月号
水のある絶景を求めて