蔵造りの建物が立ち並ぶ、美観地区でよく知られる岡山県倉敷市だが、実はマスキングテープ、ジーンズなど国内有数のものづくりが盛んな街である。
今回はそんな倉敷市で育まれてきた「帆布」と「畳縁」の老舗を訪れ、昔ながらの製法を継承しつつ、時代とともに柔軟に変化しながら、現代のライフスタイルに合わせた商品を生み続けている姿に迫った。
県産ブドウをパフェで堪能
秋雨前線が居座り、全国的に天候が不安定だった10月初旬、倉敷市の人気観光地、倉敷美観地区には抜けるような秋晴れの空が広がっていた。“晴れの国おかやま”と呼ばれるとおり、岡山県は降水量1mm未満の日が年間約277日と全国1位※。温暖で日照時間が長いことから果物王国としても知られている。ちょうどブドウの最盛期を迎えていたので、食べ頃のブドウスイーツを求めて「くらしき桃子 総本店」へ足を運んだ。こちらは県産の旬のフルーツを使った季節替わりのパフェが人気。倉敷美観地区で3店舗展開する中、今年4月にオープンしたばかりの新店舗だ。お目当てのぶどうパフェは12月下旬まで提供予定。この日は甘みと酸味のバランスがほど良いニューピオーネ、甘くジューシーなシャインマスカット、甘みの強いクイーンニーナがこぼれんばかり! 食味がそれぞれに違って飽きない。11月に入るとジューシーで甘みが強く、岡山が主産地の紫苑[しえん]が登場するという。“冬ブドウ”と呼ばれる温室栽培の品種だ。ぶどうパフェのブドウは県産約15品種が半年近くに渡って次々に入れ替わるというから、果物王国の本領に改めて驚かされる。
※(気象庁「全国気候表(1981〜2010年の平均値)」)
岡山県産のぶどうパフェ1870円。果実の風味を活かすためゼリーやシャーベットでさっぱり仕上げる。
倉敷川に面して建つ「くらしき桃子 総本店」は築200年の古民家を改装した建物。店内はエミール・ガレのガラス作品が展示され、アンティーク家具が配される落ち着いた雰囲気。
天領として栄えた、江戸時代の面影を残す白壁の町並みに別れを告げ、ものづくりの拠点・児島へとクルマを走らせる。今回の旅のお供はダークブルー・パールのフォレスター プレミアム。振動や騒音が気にならない快適なドライビングに身を委ねながら、県道22・62・国道430号を乗り継ぎ南下すると、右手に工場群が見えてきた。ここは総面積約2500haに石油精製、鉄鋼生産、自動車など200を超える事業所が集まる水島コンビナート。夕闇に星が瞬くように無数の灯りが次々に灯り、煙突から火を噴き上げる情景を目の前にして、ここも倉敷のものづくりの拠点のひとつなのだと実感した。
倉敷川の両岸に植えられた柳越しにのぞくフォレスター・プレミアム。
澄み切った川面に映り込むダークブルー・パールのボディーが美しく映える。
国道430号沿いの高台から見えた水島コンビナートの工場夜景。日没を合図にポツポツと灯りが増えていく様に、目が釘付けになった。
倉敷市の繊維産業を訪ねて
倉敷市南東部の児島地域は本州と陸続きになる以前は島で、塩分を含む土壌は米作りには適さず、代わりに綿花栽培が盛んに。そのため綿糸を用いた産業が興り、今も脈々と受け継がれている。2017年には「倉敷市の繊維産業発展のストーリー」が日本遺産にも選ばれた。瀬戸中央自動車道水島ICそばの「倉敷帆布」は明治21年(1888)創業の帆布メーカー。国産帆布の約6割のシェアを占める倉敷市で、現在2社のみとなった帆布メーカーのひとつ。1人から工業見学を受け付けている。「工場内では綿の原糸数本を高速回転で撚り合わせて糸を作り、現代では希少な『シャトル織機』60台で帆布を織り上げています。1日に最新機械の4分の1ほどしか織れませんが、適度に空気を含み、温かみのある風合いが魅力です」と取締役の武鑓美香さんは話す。製造工程の中で要となるのが織機に綿糸をセットするパーツ通し。針穴のような穴へ1本1本手作業で綿糸を通していくのだが、1人のスタッフが担っている。1日に約2000本を根気よく通し続けるそうで、類まれな集中力が要求される作業だ。織機がずらりと並ぶ工場ではガッシャン、ガッシャンと耳をつんざくような音が響き渡り圧倒される。生成りの生地が大半だが先染め糸で織り上げる柄物も作られていた。隣接の直営店ではバッグや小物、キッチン・インテリア雑貨などが並び目移りしてしまう。
右/倉敷帆布 エコトート 4400円 左/THREAD AHEADフラットポーチ 1980円 ペンケース(S) 1870円
撚り合わせた糸で縫糸を作る工程。ゆるみや張りにばらつきが出ないよう、糸を均等に整えている。
かつて帆布の原糸倉庫として使われていたという、蔵を活かした直営店の前で。
工場では、生糸と先染め糸を用いたストライプの生地も織り上げている。柄の出方や糸と糸が絡まっていないか、熟練スタッフが入念にチェックしている。
次に訪れたのは児島湾に近い「髙田織物」の直営店「FLAT 児島本店」。髙田織物は創業127年になる畳縁の老舗で、畳縁のシェアと種類の多さで日本一の織元。棚には約1000種類の畳縁がカラフルに並び、斬新なディスプレイに新しさを感じる。近年はデザインの多彩さを活かし、雑貨や手芸キットに展開したり店内でミニ畳やくるみボタン作りも体験できる。「畳縁にもモダンなデザインがあることを知ってもらい、畳を使う人以外にも畳縁に触れてもらえれば」と専務取締役の髙田尚志さん。
ものづくりの町・倉敷市の一面を垣間見られた今回のドライブ。織物を残していくために模索し、挑戦し続ける人々の前向きな姿に日本の繊維産業の明日を想像するのだった。
親子がま口財布 6160円 名刺入れ 1100円 ポーチ 1760円 印鑑ケース 2310円 バレッタ 1430円
壁一面に整然と並ぶ約1000種類の畳縁。倉敷生まれのマスキングテープを思わせる壮観なディスプレイ。
今月のルート
くらしき桃子 総本店〜
水島コンビナート〜
バイストン 本店(倉敷帆布)〜
FLAT(畳べりファクトリー)
2024年02月号
ダイナミックな風景の中へ。九州冬の旅
2024年01月号
新潟文学紀行 〜川端康成『雪国』の面影を辿る〜
2023年12月号
水の織りなす美景をもとめて
2023年11月号
SUBARU BRZで訪ねる夢とロマンに触れる旅
2023年10月号
食と自然を愉しむ、秋の満腹ドライブ
2023年09月号
淡路島西海岸サンセットクルージング
2023年08月号
日本の原風景をたどり、盛夏の緑に包まれる
2023年07月号
人々が守り続けた文化と自然が生む絶景
2023年06月号
涼やかなグリーンを求めて
2023年05月号
春を告げる花と富山湾の恵みを探して
2023年04月号
自然とアートを巡るショートトリップ
2023年03月号
つむがれ、受け継がれていく歴史の道をなぞる
2023年02月号
暮らしが生み出す光の絶景
2023年01月号
古人の歩んだ道と、見上げた空と時代の面影を追いかけて
2022年12月号
旬のごちそうを求めて冬の安芸へ
2022年11月号
四国遍路~1200年以上続く、祈りの旅路を行く
2022年10月号
絶景&美食を堪能する三陸の秋
2022年09月号
東名・新東名SA&PA寄り道ツーリング
2022年08月号
夏をほおばる!
2022年07月号
Tribute to the original cartopia 50年目の“佳いところ”を訪ねて
2022年06月号
文豪も通った、情緒あふれる峠道をゆく
2022年04月号
空と陸の交通ミュージアムを巡る旅
2022年03月号
新しい季節を迎えに
2022年02月号
SUBAROAD体験ルポ『動き続ける伊豆半島〜2,000万年の歴史を走る』の旅へ
2022年01月号
SUBARUがお届けする、まったく新しいドライブ体験SUBAROAD始めました。
2021年12月号
ノスタルジーに浸る、埼玉レトロ旅
2021年10月号
カートピアスタッフおすすめ
グルメ&スイーツ特集
2021年09月号
“走り”を愉しむ旅
2021年08月号
海と山、自然の恵みを味わう
2021年07月号
あの日の夏景色
2021年06月号
煌めく新緑につつまれて
2021年05月号
下町と山の手を結ぶ坂の町をたずねて
2021年04月号
SUBARUで走りたい
絶景のツーリングスポットセレクション
2021年03月号
SONGS on the Road 〜あの時のBGM
2021年02月号
煌めくフルーツラインと彩甲斐街道冬の旅
2021年01月号
身も心もうるおう冬の温泉郷へ
2020年12月号
39年目の八溝山へ、再び
2020年11月号
深まる秋を探しに上州の絶景ラインを行く
2020年10月号
絶景&ご当地の逸品に心躍る!〜中央道SA・PA寄り道ツーリング
2020年09月号
埼玉にある異国を旅する
2020年08月号
夏を感じる。湘南〜西湘ビーチライン
2020年05月号
春と夏の合間で
2020年04月号
春薫る、国東半島から姫島へ
2020年03月号
命の故郷に身を浸して
2020年02月号
氷と雪の織りなす美景を訪ねて
2020年01月号
歴史と伝統が紡ぐ町へ「あいばせ!」
2019年12月号
京町家の宿に住まうように旅する
2019年11月号
この地に受け継がれる
ものづくりの明日を探して
2019年10月号
初秋の魚沼美景を覗く
2019年09月号
山岳絶景と走りを堪能し、古の宿場町へ
2019年08月号
神々が宿る島でパワーチャージ
2019年07月号
彩の国、色巡り
2019年06月号
カミツレの里で、暮らしを見直すビオツーリズム
2019年05月号
海の碧、空の青、川の蒼-土佐の水辺を旅する
2019年04月号
SUBARU BRZで走り抜ける、早春の伊豆半島
2019年03月号
今見たい夜景を巡る
北九州ナイトクルージング
2019年02月号
自然と文化が息づく島根
器めぐりの旅
2019年01月号
思い出とカタチに残る旅
福井ハンドメイド・ツーリング
2018年12月号
ラグーンブルー・パールに誘われて
2018年11月号
森林の宝庫・山梨でヒーリングドライブ
2018年10月号
読書の秋。旅を通じて本との出会いを愉しむ
2018年09月号
再び輝き始めた宮城・沿岸の町へ
2018年08月号
SUBARU XVでたっぷり走る夏の北海道
2018年07月号
茶摘み体験からはじまるお茶づくしドライブ
2018年06月号
フェリーがつなぐ、日本の中のアメリカ
2018年05月号
西海岸の美景ロードを走り異文化が交わる場所へ
2018年04月号
絶景と伝統文化にふれる春色ツーリング
2018年03月号
美しい稜線が連なる山里で春の気配と大地の記憶に出会う
2018年02月号
ふるくてあたらしい、蔵の街で春を待つ
2018年01月号
安全で愉しいドライブを祈る、新春ツーリング
2017年12月号
SUBARU XV 東京タワーめぐり
2017年11月号
WRX STI 秋色探しツーリング
2017年10月号
やわらかく五感をひらく、秋。富山アートめぐり
2017年9月号
高原の涼気と、樹の香にひたる
2017年8月号
2017 Summer HIGHLAND EXPRESS
2017年7月号
豊かな水の恵みが育んだ、ここだけの味を訪ねて
2017年6月号
雨空をたたえて、こけを愛でる
2017年5月号
花と香りをめぐる旅
2017年4月号
スバルのルーツを辿る旅
2017年3月号
暮らしに溶け込む器〜波佐見で春色さがし
2017年2月号
かやぶきの里のアクティブレスト
2017年1月号
首都圏夜景の名所ツーリング
2016年12月号
日本の国石 翡翠に誘われて
2016年11月号
天気と季節の境目にて
2016年10月号
水のある絶景を求めて