昭和5年に建てられた「元禄の湯」は国の登録有形文化財に指定された名湯。四万の湯は保湿効果の高い塩化物・硫酸塩泉で、美肌の湯とも言われる。
Touring with SUBARU
命の故郷に
身を浸して
群馬県四万温泉
昭和5年に建てられた「元禄の湯」は国の登録有形文化財に指定された名湯。四万の湯は保湿効果の高い塩化物・硫酸塩泉で、美肌の湯とも言われる。
「生命」は地球の深海から湧き出る熱水の元で誕生したという説がある。温泉に浸かると、体がほぐれ温まり、心が落ち着き、自然治癒力が活性化される。これは生命に刻み込まれた誕生の記憶とリンクするからなのだろうか。今月は「四万の病に効く」効能豊かな温泉として広く知られる四万[しま]温泉を訪れた。江戸時代から続く昔ながらの湯治場[とうじば]で、明日からの活力をフルチャージする。
目の覚めるような
四万ブルー
天気や見る場所によって水色にも緑色にも変化する四万湖の湖水。訪れるたびに、季節を映す湖面を楽しめる。
渋川市を背に四万[しま]川沿いの国道353号を北上して四万温泉街を目指す。旅の相棒は小回りの利くシフォン カスタム R スマートアシスト。想像以上に視界が広く運転しやすいため、温泉街のように人通りのある狭い路地とは相性が良いだろうと期待が高まる。四万の町には信号機やコンビニがひとつも無い。その代わりに無料駐車場が点在し、ドライブ旅行には打って付けだ。それだけでなく純粋に自然や温泉と向き合えることが四万の魅力であり、至極の贅沢といえよう。
四万川は川底が見えるほどに透明度が高い。ちょうど中流辺りまで北上すると、中之条[なかのじょう]ダムの貯水湖である四万湖が見えた。アーチ型の赤い橋付近の駐車スペースを利用することに。静寂な湖面に映る空や木々。絵具を混ぜたような碧色が目に残る。これが「奇跡の四万ブルー」と謳われる景色だ。四万の水辺では季節や天候によって様々な水の色を見ることができる。
四万湖の側に停まるシフォン カスタム R スマートアシスト。ボディカラーは四万ブルーと対照的なファイアークォーツレッド・メタリック。
次なるブルーを追いかけて、引き続き国道353号を走ること5分。某アニメ映画の主題歌である「いつも何度でも」が組み込まれたメロディーラインに入った。今夜宿泊する積善館[せきぜんかん]がこのアニメ映画のイメージモデルになったという縁で整備されたのだろう。メロディーを上手に奏でるためには、時速40kmの走行がオススメだ。まもなく第二の四万ブルー、四万の甌穴群[おうけつぐん]が見えてきた。数万年もの歳月を経て、自然の摂理によってできた大小8つの穴が織り成す天然記念物だ。この日はあいにくダムの放流が重なったことで甌穴は水中に沈んでいたが、透き通るような藍色が目に優しかった。
四万川の透明度の高さが一目でわかる四万の甌穴群。甌穴は大きいもので直径3m、深さ4mにもなる。
さらに四万川上流へと駆け上り、緩めのワインディングを愉しむ。10分足らずで四万温泉の最奥に位置する奥四万湖に到達した。奥四万湖は四万川ダムの貯水湖として治水や利水を行ない四万の町を支えている。これまでのブルーより一段と深みのある紺青[こんじょう]色の湖水と、その雄大なスケールに思わず息をのんだ。
紺青の四万ブルーが印象的な奥四万湖。4月~11月頃は周遊道路が開放されているためクルマで一周できる。
四万の水辺を存分に味わい、目的地の温泉街へ。今回の湯治[とうじ]宿に選んだ積善館本館は、現存する日本最古の湯宿建築と伝えられる。シフォン カスタムのボディと同じ赤い慶雲橋[けいうんばし]を渡って駐車し、多くの旅人を癒してきた本館の門を叩いた。
昔ながらの雰囲気が漂う四万温泉街。積善館本館へと続く慶雲橋を渡るシフォン カスタム。
旅人を迎える
古きよき湯治場
元禄4年に建てられてから300年余り、四万の地で多くの旅人の憩いの場となった積善館本館。辺りが暗くなりライトアップされると昼間とは違った幻想的な姿に。
「湯治」とは字の通り、温泉に浸かり温泉を飲んで病を治すこと。医療の技術が十分に発達していなかった時代に、自分を癒すための数少ない選択肢だった。当時の人は苦労をして積善館に足を運び、切実な想いで四万の湯に浸かったという。現代では温泉本来の湯治としての目的は薄れ、遊興としての目的が強まった。ただ、それも温泉の歴史であり、湯治の歴史だと亭主の黒澤大二郎さんは話す。大切なのは、湯治の意味を知ったうえで温泉の味わい方を未来に向けてアレンジしていくこと。「温泉は生命[いのち]の故郷」という黒澤さんの言葉が心に響いた。
館内を案内しながら積善館や湯治の歴史を話してくれた19代目亭主の黒澤大二郎さん。
歩を進めるたびに軋[きし]む木造床に歴史を感じながら迷路のような館内を回り、名湯「元禄の湯」へ。飲めば胃腸に効き、入浴すれば肌に良いという四万の湯。浴場前の飲泉所で喉を潤し、扉を開けるとすぐにシンメトリーに並ぶ5つの湯船があった。大正ロマン漂う大きなアーチ窓から柔らかい陽が差す。かけ湯で体を慣らしてから、滑らかな湯触りの無色透明な湯に浸かった。湯船の底から湧き出る源泉を贅沢なほど直に受けているため体の芯からほぐれていく。指先まで滞りなく血が巡り、活力が漲[みなぎ]る感覚をおぼえた。湯上がり後もほかほかとした状態で湯冷めしにくい。四万の湯の恵みを受けたしっとり肌には驚いた。
新鮮でミネラル豊富な四万温泉を口にすることができる飲泉所。温かいまま飲むと胃腸が活発になり、冷やして飲むと便秘に効果があるという。
夕食はこんにゃく、豆腐、山菜などの腸が喜ぶ食材を使った積善弁当を頂いた。内から健康になる「食治[しょくじ]」も湯治場にふさわしい心。ヘルシーなのに箸がすすむ美味しさを堪能した。温泉と食事で心地良くなった体を寝かせ、明日を楽しみに考えているうちに眠りについた。
本来湯治中は自炊が基本だが、積善館では「積善弁当」が配される。地産地消を掲げる滋味豊かな献立。
翌朝、積善館前の落合通りにあるスマートボール店柳屋[やなぎや]遊技場を訪ねた。入店すると「お茶出すから、掛けてね」と旧知の仲のように接してくれた店主の京田二二子[ふじこ]さん。商売を始めた50年前には6軒あったという四万の遊技場も今では柳屋1軒に。スマートボールはレバーを引いてガラス玉を弾き穴に入れるゲーム。初体験でも二二子さんが孫の手を使って気さくに教えてくれるから安心だ。気づくとゲームよりもお喋りに花が咲いていた。「今度は家族といらっしゃい」その言葉に心が潤う。また四万温泉に帰ってこよう、そう心に決めてシフォン カスタムは帰路に就いた。
積善館本館前の落合通りは今も昭和の面影を色濃く残す。
懐かしい歌謡曲が流れる柳屋遊技場の店内。初めてのスマートボールでも「上手ね」と褒めて教えてくれる店主の京田二二子さん。
今月のルート
四万湖~
四万メロディーライン~
四万の甌穴群~
奥四万湖~
四万温泉 積善館~
柳屋遊技場
四万温泉 積善館
群馬県吾妻郡中之条町四万4236
TEL 0279-64-2101
ご予約・お問い合わせ受付時間:9:00~21:00
※「元禄の湯」は日帰り入浴も可能。詳細は宿にお問い合わせください。
http://sekizenkan.co.jp/
「元禄の湯」は特別に許可を得て撮影しています。撮影のためタオルを着用しています。
柳屋遊技場
群馬県吾妻郡中之条町四万4145
TEL 0279-64-2520
営業時間:10:00~16:00
定休日:木曜日
料金:入場無料・スマートボール1回500円(50玉)
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