十石峠にて。ホイール、フェンダーの汚れが50年前と現在との路面の違いを物語っている。 Photographs ●田丸瑞穂
SUBARU on the Road
Tribute to the original cartopia50年目の“佳いところ”を訪ねて
十石峠にて。ホイール、フェンダーの汚れが50年前と現在との路面の違いを物語っている。 Photographs ●田丸瑞穂
50周年記念号の特別企画として、フォレスターAdvanceで創刊号の『あ・ら・かると・ドライブ』で紹介されたルートを再び走ってみることにした。
創刊号のドライブ記事に使ったモノクロベタ焼きに写っていたカットと似た風景は今もあるのだろうか?沿道に当時のことを記憶している人はいるだろうか?50年前の先輩が詳細に記したルートを辿ることで、何かを受け継ぐことができるのだろうか?様々な思いを胸にスタート地点の新宿に向かった。
創刊号に掲載されたルート
新宿西口ロータリー
朝8時、カートピア創刊号を携えフォレスターAdvanceで新宿駅西口をスタート。かつて富士重工業があったその場所は、ぽっかりと空間があいて背の高いビル群が夏空に向かってそそり立っていた。創刊号の記事通り青梅街道を一路西に向かって走る。杉並区、練馬区を経て西東京市に入り、田無一丁目交差点を左折すると道は一車線となり、沿道の風景も空が広く戸建の家や緑が増えてくる。新青梅街道と並行して走っているのだが、青梅街道の方は踏切が多く、自転車で移動している人も多いので、ゆっくりと走るため明らかに時間を要している。ただ、窓外には役所や病院、消防署などの公共施設が多く、かつてはこの道が地域の幹線道路であったことが分かる。
やがて前方の空間を遮るように左右に広がる緑の壁が見えてきた。狭山丘陵だ。その西端で瑞穂町に入り、箱根ヶ崎交差点を右折して青梅街道と別れる。新宿をスタートしてからここまで、高速道路を走っていたのでは目にすることのない、人の暮らしの気配を間近に感じる風景に触れて東京都を出る前からすっかり旅気分に浸っていた。
この後国道16号を北上し、入間市から飯能市街を抜けて高麗川[こまがわ]に沿った国道299号へ。鉄道の線路と道と川とがもつれるように交差しながら正丸峠へと登っていく。
正丸峠手前の吾野宿
高麗川を挟んで左手にR299号、右手には西武池袋線
途中バイパスになっていた部分もあったが、旧道を探しながら秩父、長瀞を経由して鬼石[おにし]町に着いたのは午後3時。鬼石神社にお詣りした際、神職さんに聞くと、むかし裏手にある御荷鉾山[みかぼやま]に鬼が住んでおり、ここを訪れた弘法大師が鬼退治に向かったところ、鬼が町に向けて巨石を投げたことが町名の由来になっているという。その石は今も本殿下にあり、床下の隙間を通してその一部を見ることができる。この町は他にも石との縁がある。近くを流れる三波川は江戸初期から庭石として珍重されるようになった緑色片岩の採石地で、鬼石町は採石した石を売るお店や緑色片岩が創り出す峡谷美を観に訪れる人たちで賑わっていたという。町には今も石を販売する店舗が数軒あり、下久保ダム下流には約1kmにわたって巨岩、奇岩が並ぶ三波石峡[さんばせききょう]があって、特異な形をした48石には名前も付けられている。
鬼石神社本殿の床下に石が見える
三波石峡
三波川の変成帯を構成する緑色片岩
ところで、カートピアツーリングでは、これまで数回に分けて中央構造線をたどる旅に出かけた。中央構造線は関東から九州にかけて伸びる長大な断層で、内陸側が領家変成帯、太平洋側が三波川変成帯で、その名の由来となったのがこの川の名だったのだ。長野県大鹿村にある中央構造線博物館や、長野から四国佐多岬に至るまでの旅に思いを馳せながら宿に向かった。
創刊号の記事と同じようにカラっと晴れ上がった朝8時、鬼石町をスタート。下久保ダムを経て、現在は国道462号となっている神流[かんな]川沿いの道を佐久穂町方向に向かって走り始める。50年前は万場町のスタンドでガスを補給し、足回りを点検したとあるが、平成15年に万場町と中里村が合弁して現在は神流町となっている。ガソリンもまだ十分に残っており、峠越えをして茅野までは行けそうだ。沿道には当時はなかったであろう古民家の宿や道の駅、恐竜センターなどの施設もできていた。創刊号のベタ焼きには関東最大級の鍾乳洞、不二洞への案内看板が写っているが、現在不二洞の近くには高さ90m、長さ225mの歩行者用吊り橋が架けられ、橋の向こう側ではキャンプやアウトドアを愉しめる。
下久保ダムによってできた神流湖
長さ225mの歩行者用吊り橋 上野スカイブリッジ
クライマックスの十石峠越えの道は幅こそ狭いもののすべて舗装されており、谷側にはガードレールも設置されていて安心して走ることができた。様々な鳥の声や花が咲き誇る周囲の自然環境は“濃厚な自然が、これでもかこれでもかというように迫って来る”という当時の描写のままだったが、交通量は増えていて、対向車と何度かすれ違う場面があった。そんなときはフォレスターの見切りの良い前方視界とフロントビュー、サイドビューモニターがとても役立った。
未舗装でガードレールもない50年前の道
神流湖沿いの旧道
創刊号に掲載された神流湖
創刊号で遅い昼食をとったという麦草ヒュッテで現在のオーナーの島立正広さんに当時の様子を思い出していただいた。
「麦草ヒュッテ創設は1957年。当初は北八ヶ岳登山のための山小屋としてオープンしたのですが、1959年の伊勢湾台風で茶臼山で大量の倒木が出たため、それらを片付ける林道ができて作業車両が入るようになりました。その後、佐久側と茅野側からの林道をヒュッテのある麦草峠でつなげて県道茅野佐久町線となったのです。クルマが来るようになったら従来のような本格的山小屋スタイルは合わないということで、1969年に個室や浴室もある新しい小屋に立て替えたのです。記事はその3年後ですね。その頃はまだダート路で、ここまでマイカーで来る人は珍しかったですね。 “大石峠、麦草峠を経て”とありますが、当時バス停の表示は“大石峠(麦草峠)”となっていたのを覚えています。佐久側と茅野側で峠の呼び名が違っていたのではないかと思います。麦草峠という名は、この辺りに生えるイネ科の植物イワノガリヤスの別名が麦草ということに由来しています」
1972年の麦草ヒュッテ入り口
未舗装の峠道を走るレオーネ4ドア1400GL
麦草峠手前の八千穂高原を走るフォレスター
麦草ヒュッテは現在、冬山登山者や別荘代わりに保養で利用する人、自転車の高地トレーニング合宿など、様々な人々に利用されているそう。最近は苔の森としても知られるようになり、針葉樹の原生林に群生する美しい苔を求めて訪れる人も増えている。
赤い三角屋根がトレードマークの麦草ヒュッテ
長野県茅野市北山8241-1 TEL 090-7426-0036(現地)
手作りのカボチャプリンとコケモモパウンドケーキ。
北八ヶ岳の地下水を使ったオリジナルブレンドコーヒーとセットで各¥1,100(税込み)。
この夏は同じ水を使ったオリジナルクラフトビールも発売予定。
オーナーの島立正広さんは日本蘚苔類学会員でもある。
6〜10月はコケの観察ツアーも開催。
麦草ヒュッテを後に国道299号で茅野市に下り、今なら諏訪ICから中央道に入れば新宿まで一気に高速道路で結ばれているのだが、創刊号のマップ通り甲府を経て大月まで国道20号で移動する。距離は約100km。途中大きな街を通過するところは片側2車線になっているものの、古くからの宿場町や谷間の筋道は今も片側1車線で、車窓からの風景は50年前とあまり変わっていないのではないかという気がしてくる。茅野から約2時間半をかけてようやく大月ICに辿り着く。この旅で初めて使う高速道に入りほっとしたのも束の間のこと、40分ほどで調布ICを降り、再び国道20号を走り新宿へ。西新宿に着いた時には午後8時を回っていた。
国道299号から眺めた茅野市街
創刊号のドライブルートを辿って感じたのは、今は何の不安もなく安心、快適に走ることができる道も、当時は未舗装路が多く、ラフロード走行のテクニックと冒険心が必要だったということだ。カーナビも無い50年前、地図を片手に見知らぬ土地にドライブに出かけるということは、想像以上にアドベンチャラスなことだった。50年の間に交通環境やクルマも大きな進化を遂げたが、かつて先輩が抱いていた冒険心だけは、褪せることなくしっかり受け継いでいかなければならないと思った。
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