廣田:レヴォーグレイバック(以下レイバック)の走行性能の開発に際し、狙いとしたのはベースとなるレヴォーグゆずりの安定性と、アウトバックのようなSUVらしい快適な乗り心地を実現することでした。限られた開発期間の中でこの走りを実現するために、今回はモデルベース開発(以下MBD)という手法を解析チームと共に本格的に使用しました。MBDは自動車を含め様々な分野で採用が進んでいる開発手法です。シミュレーション技術を活用することで開発の初期検討でも走行データ等が可視化され、目標値と照らし合わせ、ゴールをより具体的にイメージしながら開発をスリムにすることでも取り入れられています。
足まわりに使用されているサスペンションダンパーの開発も、従来はヒトの経験値や簡単な机上計算から試作部品を実際に造り、車両に装着し走らせて、きちんと狙いどおりに機能するか否かを検証するといった開発をしていました。その走行性能は品質面も兼ねていて、失敗すると後戻りをして設計・実験をやり直す必要がありました。完ぺきではありませんがMBDを取り入れたことにより、初期段階から品質を含めた評価項目を机上で見通すことができるため、後工程でのやり直しを減らし、実車での性能開発のスタート位置を高く設定できました。SUBARUらしい安心と愉しさをお客様に実感していただくための仕上げの走行試験に、より多くの時間を割くことができたことが今回の最大のメリットです。
実走行の確認では、レヴォーグ、アウトバック、クロストレックで蓄積したデータを元にMBDを活用したサスペンションの設定で、初期の段階でも7~8割の性能が得られました。
ただそこからの造り込みは簡単ではありませんでした。難しかったのはMBDでも未知の部分である、レヴォーグゆずりの安定性を確保する「感」の部分でした。サスペンションのストローク量が増えたことや解析によって、早い段階でアウトバック並みの乗り心地は達成できたのですが、それと相反する形で安定性は満足できるものではありませんでした。特にコーナリング時に生じるロール(左右へのぐらつき)は難題でした。ここで単純に足まわりを締めてレヴォーグ並みの安定性を確保しようとすると、しなやかさが失われ、理想とするレイバックの走りは実現できません。
これを解決するキーアイテムとなったのが、新しい構造のサスペンションダンパーでした。足まわりが上下したときに、内部のピストンやバルブがオイルの流れを制御して減衰力を発揮し、ボディの動きをコントロールするのがダンパーの役割ですが、バルブの周縁に凸部を設けて、力が加わる瞬間に一瞬踏ん張りが得られる構造をサプライヤーさんから提案していただきました。これを採用したことで、まさしく我々が目指していた安定性と乗り心地が両立されたレイバックの走りを実現できたのです。(図参照)
成瀬:SUVの乗り心地の良さときびきびとした走りを実現するにあたり、ステアリング機構においては切り始めの滑らかさと切りやすさを目標に、レヴォーグで実績のある2ピニオン電動パワーステアリングを継続採用しました。その際、レイバックは車高を上げているので、ステアリングコラムとピニオンギヤの間にあるユニバーサルジョイントを新たに造る必要がありました。具体的にはユニバーサルジョイントの中間部にあるシャフトや、上部と下部にある部品を長くしたのですが、MBDで机上計算を行うことで、実車を用いないミニマムな開発ながらも最適なシステムを提案することができました。また、計算に用いるパラメーターを変えることでどのような事象が起きるのかなど、部品の機能や特性に対する理解を深めることができました。これもMBDのメリットのひとつです。
設計者自身が完成車に乗って様々な道を走行させて性能を確認する“品質確認走行”では、しっかりとSUBARUらしい走りが実現できていることを確認できました。SUBARUのお店でレイバックを試乗される際には、街中を走行するような低速時でも軽くて切りやすく、かつ切り始めから確かな手ごたえのある滑らかな操舵感を味わっていただきたいと思います。
今月の語った人
株式会社SUBARU 車両運動開発部 車両運動開発第二課
香川県善通寺市生まれ。家族で故郷に帰ったときにはうどん店を巡り、お店ごとに特色のある本場讃岐うどんの味を愉しんでいるそう。小さい頃からクルマ好きで、パリ・ダカールラリーを見て刺激を受けた小学校の卒業文集には「将来はラリーに参戦したい」と書いた。現在は仕事はもちろんオフタイムでもクルマのメンテナンスや関東エリアでのサーキット走行を愉しんでいる。スーパー耐久レースのSUBARUチーム「Team SDA Engineering」のドライバーでもある。
株式会社SUBARU ボディ設計部 機構設計第二課
埼玉県鴻巣市出身。SUPER GTなどに参戦するスポーツカーに憧れて、小学校5年から高校卒業まで、レーシングカートを体験。大学時代は自動車サークル“円陣会”に所属し、手造りのフォーミュラカーの完成度や性能を競う学生フォーミュラに挑戦。一年生のときには動かすことさえできなかった車両を四年生のときには走らせることができるようになった。オフタイムには愛車のインプレッサで行ったことのない土地に出かけ、地図ではわからない風景を見てリフレッシュしている。
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