SKCのテストコースに接地悪路を造ったのは、初代フォレスターの開発時に遡ります。SUVとしての走破性を鍛えるためにメインの市場として想定していた北米の悪路を忠実に再現したのです。試作車でそこを走り込むことで、机上の計算やシミュレーションでは見つけられない課題をあぶり出し、その一つひとつを改善するのが狙いでした。このように“ 実路を走って検証する”というのはSUBARUの車両開発の伝統的な手法です。
悪路という言葉から未舗装の林道を連想されるかもしれませんが、ここに再現されているのはラフロードだけではありません。道路と歩道との境の「スロープ(縁石)」や、バンパーに届くような高さの「輪止め」、急な傾斜ときついコーナーがある「自走式立体駐車場の坂道」、路面を断続的に隆起させて走行時に上下の振動を起こしドライバーに減速を促す「ハンプ路」など、世界各地のクルマを取り巻く環境の中で日常的に出会うさまざまな状況を再現しています。このほか、ラフロードとして再現しているものには、釣りに行く人が通るような河川敷にある「玉石[たまいし]路」(下写真)、未舗装の林道を再現した「砂利の轍[わだち]路」、キャンプ場などで良く見られるかまぼこ状に出っ張った「山路」や緩く大きく窪んだ「穴路」などがあります。
さらに、4輪の駆動力やブレーキなどを適切にコントロールすることで、悪路からのスムーズな脱出を実現するX -MODEの開発では、より厳しい走行条件を持った、急傾斜の砂利の坂道「砂利登坂路」や、砂利の坂道の途中に鋭角コーナーを設けた「屈曲登坂路」で検証を重ねました。国内ではクロスカントリー4WD車で遊ぶ特設のコースを持つオフロードパークにしか無いようなシビアな坂道ですが、海外では実際にこのような道を使って通勤している例があるのです。このシビアなコンディションの試験路で、タイヤが浮いてしまうような厳しい状況でもどなたでも安心して運転できるX -MODEのきめ細やかな制御を磨いてきました。
接地悪路のそもそもの目的は“床下の体力を検証すること”です。クルマの床下には排気管やエンジンのオイルパン、トランスミッションケースなど、走行に必要な重要部品が配置されています。走行中にこれらの部品に路面の突起物がぶつかって、部品が破損したり脱落したりすると走行に支障を来し、走行不能になってしまう場合もあります。そこでSUBARU ではまず、床下の部品を可能な限りフラットになるようレイアウトし、突出した部分を無くしてぶつかることの無いように設計することから始めます。次に万が一走行中に路上の突起物や石などが床下の部品にぶつかったとしても、部品が脱落したり破損したりしないよう、部品の耐久性を高め、部品のフロント側の形状においてはソリの先端のような斜めの形状とし、衝撃をいなすよう造り上げています。
そして、そのように造り込んだ試作車を、接地悪路で床下をぶつけながら何度も走らせ検証することで、床下の体力を鍛え上げていくのです。このように実際に接地悪路を走行して鍛え抜いたSUBARU車は、世界各国のどんなラフロードでも安心してお乗りいただくことができます。
SUBARUはフォレスターやレガシィ アウトバックなどSUVだけでなくレヴォーグやレガシィB4、インプレッサなど標準車高の車両でも接地悪路の一般道とラフロードでの走行試験を行なっています。SUBARU車をご購入されたお客様は、シンメトリカルAWDの悪路走破性にご期待いただいていることと思います。その思いに応えるため、私たちはシビアな走行試験を繰り返し、床下の体力を鍛えているのです。
今月の語った人
第一技術本部 車両研究実験第二部 車両研究実験第一課
福島県福島市出身。クルマとツーリングが好きで、STIやレガシィで近郊エリアでのツーリングを愉しんでいる。お気に入りのルートは利根沼田望郷ライン。走りやすく、谷川岳を望めるようなポイントもあり景色が秀逸。紅葉も美しく、日光のように激しく混雑することもない。沼田側に抜けて道の駅 川場田園プラザでランチをとって帰るのが定番のコース。10年前からは仲間と共にバイクでのツーリングも愉しんでいる。ふるさと福島のお勧めルートは磐梯吾妻スカイライン。ここの紅葉も見事だそう。福島の郷土料理“イカにんじん”もお勧め。
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