私が所属しているCMFデザイン課では、クルマのエクステリア、インテリアのColor(色)、Material(素材)、Finish(表面処理)をトータルでデザインしています。今回は主として0次安全の視点からSUBARU車の内装がどのようにCMFデザインされているのかについてご紹介します。
クルマのデザインにはさまざまな役割があります。まずひと目見て惹きつけられる“インパクトのあるデザイン”。次にクルマを長く使っているうちに愛着が湧いてくる“深みのあるデザイン”。そして0次安全の視点からSUBARUが大事にしているのが、運転中に存在を主張しなくなる“ 無になるデザイン”です。これがしっかりとできたクルマは、運転していてどこか落ち着きや居心地の良さを感じる空間を持っています。
存在を主張しないインテリアデザインを造りあげるために私たちが最も重視しているのは、太陽光です。運転時にさまざまな方向から射し込んでくる太陽光は、いろいろな見え方で煩わしさに変わります。私たちが目指したのは、そんな太陽光をうまくいなして太陽といい関係を築くことです。
たとえば、インストルメントパネルの中央と左右両サイドにある空調の吹き出し口は、その機能がひと目で分かるよう、シルバーの塗色で囲むデザインを採用しています。しかし、その色がサイドウインドゥに映り込むとサイドミラーを見たときに煩わしく感じられ、運転を妨げます。これを防ぐために両サイドの囲み部分は表面に丸みをつけて張りを持たせ、光を凝縮して反射する光を小さくしています。さらにセンター部より暗めのシルバーを使って輝度を抑えることでウインドゥへの映り込みを抑えています。
もう一点、新型インプレッサから新たに採用した内装の表皮「しぼ」についてご紹介しましょう。「しぼ」というのは意匠性に加えて特定の機能を持たせた素材表面の凹凸のことです。たとえば樹脂製のしゃもじやお風呂場の床面の凹凸は、ご飯を付きにくくするとか、床面の水を流れやすくして乾きやすくするという機能を持たせてデザインされています。クルマの内装の場合、高い質感や触感の良さを持たせると同時に、0次安全の観点から太陽光の反射を抑えるという機能が求められます。
下の写真は私たちが新たに開発した内装の表皮「しぼ」を従来のものと比較したものです。まったく同じ条件で光を反射させていますが、手前の方が反射が抑えられて黒く見えることがお分かりいただけると思います。従来の「しぼ」と比較して反射が少ないのは、「しぼ」断面の中にさらに細かいテクスチャーを与えることで光をさまざまな方向に散らし、ドライバーの目に飛び込んでくる光を減らしているからです。これによりインストルメントパネル上部の光の反射が抑えられ、よりクリアで疲れにくい運転視界を造り上げることができました。
使用する部品についてSUBARUには独自の厳しい採用基準があります。今回新たに開発した表皮も、赤道直下の炎天下を想定した耐熱試験や、そのような環境下で内装に細かい砂が付着した場合でも簡単に拭き取ることができるかどうかなど、さまざまな実用試験をクリアしています。砂を拭き取る試験では、SUBARU車が販売されている国で一般的に入手できる布についても調査し、実際の使用状況に合わせて拭き取りテストを行なうなど、あらゆる配慮の上で検証しています。こうした厳しい試験を経ているからこそ、SUBARUに乗る世界各国のお客様に長く安心してお使いいただくことができるのです。
SUBARU車に乗って“なんか居心地がいいな”と感じていただけたなら、“無になるデザイン”という私たちの取組みが成功したということです。
今月の語った人
商品企画本部 デザイン部 CMFデザイン課 担当
北海道富良野市生まれ。自然に恵まれた環境に育つ。冬季は自宅近くのスキー場で、小学生時代は学校が終わった後、夕食の前後1日に2回スキー場に出かけていた。スピード感や風を受けて走ることが大好きで、春になり車庫から自転車を出してもらう日が待ち遠しかったそう。堤防を走るのが好きで、近くの空知川の堤防をどこまでも自転車で出かけた。そんな思い出からか、現在も太田市近郊の川沿いに住んでいる。川のせせらぎを聞いていると心をリセットできるそう。
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