クルマの不安定な挙動を抑えるVDCは、4輪それぞれの車輪速度、ブレーキ圧、ステアリングの舵角、車体の前後方向/横方向の加速度、旋回時の荷重変化などをセンサーで読み取り、それら全てを統合したデータからクルマの挙動をコンピューターで解析しています。そしてクルマがコントロールの限界付近にあると判断した場合は4輪個別のブレーキ制御、エンジン出力制御、AWDトルク配分制御を行ない、コーナリングや急な危険回避時の挙動安定性を高めます。VDCの制御が介入したときは、運転席メーター内の作動灯が点滅し、ドライバーにクルマが滑り出しそうになっていることを伝えます。SUBARUでは、WRXやBRZのようなスポーツ走行をするモデルと、アウトバックやフォレスター、SUBARU XVなどSUV系のモデルとで、お客様が実際にお使いになるシチュエーションを考慮して異なったチューニングを行なっています。
VDCは、現在では多くのクルマが採用しているポピュラーな装備ですが、そのチューニングは自動車メーカー毎に異なります。SUBARUが目指しているのは、VDCが働いたときに“ドライバーに違和感を与えず、自然な介入感で自分の運転がうまくなったように感じる制御”です。そのためには氷上、雪上、未舗装路、濡れた舗装路、乾いた舗装路など、クルマが今走っている路面状況をできるだけ正確に判断し、その状況に相応しい制御を行なわなければなりません。“滑り出した車輪にブレーキをかける”というだけの単純な制御では、路面状況によってはドライバーの意図しない挙動になってしまうケースもあるのです。
路面状況を正確に判断し、ドライ路面から凍結した路面までどんな場面でもその状況に相応しいブレーキやAWDトルク配分制御を行なうためには、できるだけ多くの路面を実際に走らせて、VDCの作動状況を確認しなければなりません。そこで力を発揮するのがSKCのダートコースなのです。
SUBARUでは、栃木のSKCと北海道美深にあるテストコースで温度変化や路面状況など様々なコンディションを再現した試験を行なっています。ほとんどの試験設備は緻密に設計され、コンディションが管理されています。その中で、SKCのダートコースは異色の存在です。1989年のSKC開設当時、主として操縦安定性や乗り心地、強度耐久性をテストするためのコースとして設計されましたが、WRCへの挑戦を開始した時期でもあったため、変化に富んだラリーのグラベル路(未舗装路)を再現したコースにしたいという狙いもありました。そのため、一周約1.6kmのコースの中で砂利の形状や硬さなど路面状況がコントロールされているのは部分的で、あとは硬い砂地の上に砂利を敷いたダート路で、砂利の深さもまちまちです。自然の地形を生かして造られているため、道幅は6〜12mの間で変化し、コーナーの曲率は160〜14Rとバリエーションに富み、全体に10%の勾配があります。雨が降れば路面は荒れ、豪雨の後など水流でできたギャップがコースを横切り、走行できなくなってしまうこともあります。つまり実際に山の中に設けられている林道と同じ状況が再現されているのです。そんな予測不能の路面でテストする狙いは、“より広範囲な走行環境を再現すること”です。管理されたテストコースでは再現できないリアルワールドでの挙動をあぶり出します。VDCの制御ユニットを開発しているサプライヤーも独自のテスト走行を行なっていますが、SKCのダートコースでのテスト走行で違和感のある挙動が見つかり、制御プログラムを修正したこともありました。
普通に運転していれば滅多に制御介入することのないVDCですが、突然の豪雨やぬかるみなど、ヒヤリとするような場面に遭遇したときにしっかりとサポートする安全機能です。どんな場面でもいつもと同じように安心して運転できること。それがリアルなSKCのダートコースでテストしたSUBARU車の強みです。
今月の語った人
第一技術本部 スバル研究実験センター車両研究実験第一部
車両研究実験第三課
神奈川県相模原市出身。クルマが大好きで幼稚園の頃からレーサーに憧れて育つ。大学在学中は自宅から秦野市にある学校まで片道約40kmの山道をFRのスポーツカーを運転して通学。その時の“通学路”宮ヶ瀬湖を抜けるルートは四季の風景の変化も楽しめるお薦めのツーリングルートだそう。旅行も好きで、最近は全国各地のラーメン店を訪れる“ラーメンツアー”を愉しんでいる。お気に入りは豚骨系のラーメン。ラーメンを食べに日帰りで博多まで出かけることもある。北海道旭川の『山頭火』のとんこつラーメンは、あっさりした味わいがいいという。
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