交通事故統計によると、現在日本で発生している自動車事故形態でもっとも多いのが追突です。アイサイトでは、ステレオカメラを使った運転支援機能を洗練させ、この追突事故を大幅に減少することができました。さらに横断歩行者との事故にも対応しました。新世代アイサイトでは、支援できる事故形態の領域をさらに拡大することを目指し、追突の次に発生件数の多い自車右左折時の歩行者や対向車との事故、出会い頭の衝突事故にフォーカスしてプリクラッシュブレーキ性能を進化させてきました。そのために行なったのがステレオカメラの広角化と前側方レーダーの採用です。ステレオカメラは従来(ver.3)と比較して画角を約2倍に拡大し、見える範囲を拡げました。これにより交差点で右左折した先に対向車や歩行者がいた場合や、自転車の急な横断などにも対応できるようにしています。
さらに、今回前側方レーダーを追加装備して新たに“前側方プリクラッシュブレーキ”を開発しました。これは、見通しの悪い交差点に進入しようとする際、ドライバーの死角にある前側方から近づいてくる車両があれば警報音と警告表示でドライバーに注意を喚起し、回避操作がない場合はブレーキ制御を行ない、減速または停止する機能です。自車が発進してから20km/hまでは警報・警告表示とブレーキ制御、60km/hまでは警報・警告表示を行ないます。また、相手車両の速度は5km/h〜60km/hの範囲で機能するように設定しています。
“前側方プリクラッシュブレーキ”は車両の左右前側方に装備したレーダーがキャッチした情報をステレオカメラに内蔵したコンピューターユニットに送り、自車と対象物との相対距離、相対速度などから衝突の可能性が高いと判断したターゲットに対して警報・ブレーキ制御を行ないます。ステレオカメラでは捉えられない前側方の状況を広い範囲でキャッチできる前側方レーダーは、ターゲットの位置・速度を正確に検知します。しかし当初部品メーカーが持ってきてくれた既存の車載用レーダーは、レーダーの検知結果を安定させるために多くの補正を行なっていましたが、応答性が十分でなくターゲットが衝突直前に進行方向を変えた場合などに誤った制御をしてしまうケースが予想されました。そこで、私たちはターゲットが動いてもその位置・速度を正確に把握するために、従来より約2倍に反応速度をアップした高性能レーダーを部品メーカーと共に開発しました。
このレーダーが“前側方プリクラッシュブレーキ”開発のキーアイテムとなりましたが、アイサイトでは信頼性を高めるため、レーダーからの情報をさらに精査した上で制御を行なうプログラムとしています。分かりやすく表現すると、レーダーからの情報は速報性を重視して粗い網でとらえたものとして受け取り、アイサイトのコンピューターユニットでは引き続きその情報が確かなものなのかを検証しながら、警報・ブレーキ制御などの準備を始めます。レーダーから引き続き送られてくる情報を得てその真偽を確かめてから初めて警報・ブレーキ制御を行ないます。
SUBARUが運転支援システムの開発当初から重視してきたのは、いかなる道路環境においてもドライバーに違和感を与えずに支援を行ない、安心して運転していただくことです。アイサイトの制御コンピューターには今まで積み重ねられてきたSUBARUのノウハウが全て組み込まれており、高性能レーダーから得られた情報もその蓄積したプログラムによって細かい網でふるいがけされるからこそ正確な制御に活かすことができるのです。
今月の語った人
先進安全設計第一課
新世代アイサイトの前側方レーダー開発を担当。群馬県太田市生まれ。大学時代は福島県郡山市で、その後SUBARUに入社して1年間東京都三鷹市で過ごし、再び生まれ故郷の太田市に戻る。親戚の畑での収穫体験をきっかけに始めた家庭菜園は11年目に。家庭菜園向けの栽培野菜のおすすめはブロッコリーとスナップエンドウ。いずれも市販品より圧倒的に甘くて美味しい味を楽しめるそう。
先進安全設計部 主査5
新世代アイサイトのプリクラッシュブレーキ制御開発を担当。熊本県熊本市出身。魚は釣るのも食べるのも好きで小さい頃から大分県の祖父の家に行き、アジやキスなどを狙った釣りを楽しんで育った。熊本のおすすめドライブルートは阿蘇のミルクロード。牧場が点在する草原エリアで、阿蘇の広大な景観を楽しめるそう。食べ物なら馬刺し。地元ならではの味の甘味の強い醤油と生姜を合わせていただくのがおすすめ。
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