クルマのデザインは、インテリアやエクステリアのカタチを考えるだけでなく、色や使用する素材を考えたり、二次元のデザイン画をクレイモデルで立体造形にしたりと、それぞれに専門的な技術や知見が要求されます。SUBARUのデザイン部でもさまざまな分野のスペシャリストたちが、創造的な力を発揮して一台のクルマのデザインをまとめ上げていきます。
今回「グッドデザイン賞」で評価されたCMFとは、C(Color:色)、M(Material:素材)、F(Finish:仕上げ加工)の略で、それらによって構成されるサーフェイス(表面)を意味しています。クルマを購入するとき、お客様はカタチや機能だけでなく、ボディ色や内装の色、素材、シートに座ったり生地に触れたりしたときの感触も重視されているのではないでしょうか。SUBARUは、そのようなCMFを意識しながら、人の感性に訴える部分に焦点を当てたデザイン開発を行なっています。
SUBARUデザインのベースにあるのは“安心と愉しさ”を表現する“Dynamic×Solid”という考え方です。それをCMFの視点でひも解くと、“Dynamic”は街で見かけたときに一瞬で心が動かされる「インパクト」。“Solid”は購入して使っていく中で感じる機能性や快適性の良さという「深み」のあるデザインということになります。今回ご紹介する新型フォレスターX-BREAKは、そんなSUBARU車らしいCMFデザインを存分に表現できた具体例です。
新型フォレスターでは“SUVの力強さと上質さを兼ね備えたインテリア”、“ひと目で冒険心をかきたてる逞しいエクステリア”をコンセプトにデザイン開発を進めました。X-BREAKではアクティブでタフなイメージを強調するため、アウトドアギア(アウトドアで使う道具)のような“機能や意味を持つデザイン”を目指しました。たとえば、前後バンパーやサイドクラッディング、ホイールアーチ部に用いている樹脂パーツは、表面造形にピラミッド型の凹凸の模様を採用しています。この模様はタフなイメージを表現するだけでなく、擦れなどで傷が付いても各ピラミッドの頂部だけが削れるため目立ちにくいのです。荷室、リヤゲートの内側にも同様の表面造形を採用し、実用性を高めています。
また、オレンジのアクセントカラーも無意味に使っているのではなく、ルーフレールの前後にあるループ部やアンダーガードの部分、車内ではシフトパネル、左右のエア吹き出し口など、操作のために手を伸ばす部分や機能を伴う場所に採用しています。このように、素材や色が道具としての機能や意味を持つデザインとしました。
X-BREAKのファブリックシートには、SUBARUらしいインテリアデザインの特長がよく表れています。SUBARU車のインテリアデザインとして私たちが一貫して追求しているのは“構造感(しっかりと厚みがあって丈夫に見えること)と触感(肌触りの良さ)を兼ね備えたデザイン”です。フォレスターのファブリックシートは全てのグレードでSUVらしいタフで丈夫なイメージを持たせるため、グレー系の糸4色を使って四角いマス目が積み上がって見えるブロック調デザインを構成しました。X-BREAKではわずかにオレンジの糸を追加して深みを出し、さらに撥水素材としています。また、ドア内側はこのファブリックを窓縁にまで巻き込むように使用することで、しっかりと厚みのあるタフなイメージとしました。
見た目のタフさに対して、触れていただけるとその優しい感触に驚かれると思います。織物の表皮を微かに起毛してピーチスキン(桃の皮)のような柔らかな風合いを出すことで、このような感触を実現しました。構造感のあるタフなデザインは写真でも伝わると思いますが、優しい感触は実際に触れることで初めて分かります。是非お店で触れて、その触感を確かめていただければと思います。
今月の語った人
株式会社SUBARU
商品企画本部 デザイン部
群馬県高崎市出身。榛名山のふもと、豊かな自然に囲まれた環境で育つ。小学校の頃の社会科見学がSUBARUビジターセンターだったり、父親がSUBARU好きだったりと、小さい頃からSUBARUには親しみを感じていた。織物やテキスタイルが好きで美術大学に進学し、テキスタイルデザインを学びながら、インテリア・空間デザイン・ファインアートに関わる布のデザイン・制作を行なう。オフタイムは、旅行・トレイルラン・フラワーアレンジメント・ホットヨガ・アクセサリー作りなど、“よく働きよく遊ぶ”をモットーにアクティブに活動している。
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