藤井:スマートリヤビューミラーはカメラでとらえた車両後方の映像をルームミラーに表示する機能です。通常は一般的なルームミラーと同じミラーモードをお使いいただき、荷室に荷物を満載したり、後部座席に人を乗せたりしてミラーに映る後方視界が妨げられた時にディスプレイモードに切り替えるとカメラがとらえた後方の様子を見ることができます。従来はカメラをリヤゲートガラスの内側に取り付けていましたが、そのためにリヤゲートの内側に突起部を設ける必要がありました。今回、アウトバックでは荷室の広さや使い勝手に対して高い目標性能が設定されていたため、開発初期は荷室スペースを阻害するスマートリヤビューカメラの採用は考えていませんでした。ところが、先行開発で研究が進んでいたシャークフィンアンテナへのカメラ搭載技術が量産化できる目途がついたということで、アウトバックに初めて搭載することになりました。
シャークフィンアンテナにカメラを格納すると、荷室容量を変えずにスマートリヤビューミラーを搭載できるだけでなく、ガラスを介さないので太陽光の乱反射などのないクリアな視界が得られ、ハイマウントストップランプの赤色光の干渉もありません。一方、カメラから出る電波ノイズがアンテナユニットに干渉してしまうことや、耐候性の確保という課題がありました。前者については、内部のカメラユニットとアンテナユニットを完全に切り分けて格納した二重ケース構造とし、カメラのケーブルを独自にアースさせることで解決しました。また、耐候性についてはカメラ下部のパッドに導水口を設けて排水性を確保し、虫や埃などの詰まりを防ぐため、カメラとアンテナのアウターカバーとのすき間を厳密に管理して、設計値から0.2mmまでのズレしか認めない、高精度で仕上げています。
富岡:従来のロッド式に対してシャークフィンアンテナはデザイン性に優れているというのが最大のメリットです。ロッド式はメディア・法規の影響で仕向け地毎にロッド、ケースが異なっていたのに対して、シャークフィンアンテナは全ての仕向け地で同一外観のケースを提供できるというメリットもあります。今回開発したアウトバック用のシャークフィンアンテナは、テレマティクス通信「SUBARU STARLINK」用の送受信機能と、アイサイトXでGPSや準天頂衛星「みちびき」からの電波を受信するユニットを格納し、その後部にスマートリヤビューミラー用のカメラを搭載しました。サイズは従来品と比べて高さと幅は変わらず、前後方向に10mmほど長くなっています。ラジオ電波はより高い音質を再現するために別途リヤゲートのガラスアンテナで受信するようにしました。
シャークフィンアンテナのアウターカバーは耐衝撃性に優れたポリカASA樹脂を使っています。造形についてはデザイン部やサプライヤーとも話し合って、よりシャープでカッコ良く見える流線型形状としました。また、SUBARUらしい取り組みと言えるのが、表面に新たに2種類の機能性シボを織り込んだことです。ケース側面にはヘキサゴン(六角形)シボを、天頂部には鮫肌シボを施しています。これにより走行時の空気の流れを理想的な方向になるように制御し、操縦安定性を高めています。
今回は、シャークフィンアンテナにカメラを内蔵し、空力的な機能も付加するという機能拡大の一例をご紹介しました。今後はクルマとクルマをとりまくあらゆるモノが無線通信でつながることで、交通安全や渋滞の解消、環境負荷低減など、多様な分野において機能が拡大していくことが期待されています。将来は今のような形状ではなくなるかもしれませんが、シャークフィンアンテナに課される役割は、ますます大きくなっていくのではないでしょうか。
今月の語った人
株式会社SUBARU 技術本部 ADAS開発部 ADAS開発第一課
北海道恵庭市出身。SUBARUに入社するまで花の町づくりに力を入れている恵庭市で育つ。地元特産品のひとつ、甘くてほくほくとしたえびすカボチャはおすすめとのこと。趣味はバイクツーリング。一人で、時には会社の同期と一緒に気の向くままに出かけている。これまでに訪れた中で印象に残っているのは花が咲き始める春先に訪ねた福島県。日本の原風景を感じさせるほのぼのとした田園風景に心を癒されたそう。
株式会社SUBARU 技術本部 E&Cシステム開発部 主査
千葉県船橋市出身。SUBARUに入社してから職場の上司の誘いでゴルフを始める。ゴルフの楽しいところは自分の戦略通りにうまくいった時の快感。現在も月に一度の頻度でコースに通っている。休日はドライブがてら埼玉県や栃木県など、近県のラーメン店めぐりをしている。評判の良いお店を訪ねていろいろな味を楽しんでいるそう。最近はうす味の塩ラーメンや、低温調理チャーシューなどが流行っているという。
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