ここがSUBARUです。Vol.47

レヴォーグ/WRX S4に搭載された「アイサイト・ツーリングアシスト」は、高速道路や自動車専用道でのすべての車速域で、ドライバーの運転操作をアシストすることで、疲労やストレスを軽減し、ドライブの愉しさを深めてくれる新機能。その肝となっているのが約60km/h以下でのステアリング制御です。今回は、そのステアリング制御を担当したエンジニアに話を聞きました。
「アイサイト・ツーリングアシスト(以下、ツーリングアシスト)」という名称をCMなどでご覧になったお客様も多いかもしれません。時速0 kmから約120kmの車速域でアクセル、ブレーキの制御だけでなく、ステアリング操作もアシストする機能、それがツーリングアシストです。
開発するにあたって、人はカーブをどう運転しているのかを知るために、カーブの連続する道を何度も走ってみました。ドライバーは、ステアリング操作が最小限になるよう、急ハンドルにならないよう、予測と判断を繰り返して運転しています。ツーリングアシストのステアリング制御も基本的にはこれと同じです。
ステアリング制御は、メーカーの思想が色濃く反映される部分です。あくまでもドライバーに操作をさせるために制御を弱めにしているメーカーもあれば、車線からはみ出しそうな時など必要になってから制御をするメーカーもあります。一方SUBARUの場合は、常に車線中央付近を維持するよう制御を行ない、例えばカーブでもなめらかに曲がれるようステアリング操作をアシストします。
こうした制御は、運転する愉しさを提供してきたSUBARUらしくないと思われる方もおられるかもしれませんが、この背景には、SUBARUが大切にしてきた「グランドツーリング思想」があります。ドライビングそのものを愉しむのはもちろんですが、到着先でのアクティビティも心置き無く愉しんでいただけるように、移動をできるだけ安全で快適で疲れにくいものにする。それが「グランドツーリング思想」です。これを具現化したのがツーリングアシストなのです。
ツーリングアシストの開発の肝は時速約60 km以下でのステアリング制御です。従来の車線中央維持機能は、ステレオカメラで区画線を認識して制御を行なっていましたが、低速域では車間距離が縮まるため、区画線が認識し難くなる場面があります。例えば、三車線の高速道路の中央レーンで区画線が破線の場合、カメラから区画線が完全に見えなくなる場合があります。そうした状況でも制御を可能にするために、区画線情報を認識して制御するモードだけでなく、区画線と先行車の両方を認識して制御するモード、先行車のみを認識して制御するモードを用意し、制御対象を必要に応じて切り替えながら制御しています(下図)。
移動を快適で疲れにくいものにするために、ステアリング制御で苦心を重ねたのが、ドライバーの違和感に繋がるような挙動をできるだけ排することです。ステアリングの動きがぎこちなかったり、急な力が加わったりすれば、違和感が生じて疲れます。いかに違和感なく、カーブを綺麗にトレースさせるかを大切に開発しました。また、前述の3つのモードの切り替え時、例えば制御対象が区画線から先行車に切り替わるときに、先行車の位置が自車に対し、右や左にずれていても、それに追従して急なステアリング制御が入らないように、工夫しています。
今、お客様の元に届けられているツーリングアシストは、まるで上手なドライバーがステアリングを一緒に握って操作してくれているような制御が実現できていると思います。これを使って、今までよりももっと遠くに行けたり、旅先でこれまでは挑戦できなかったことに心置き無く挑戦できたりと、お客様の愉しさがこれまでよりも少しでも広がれば嬉しく思います。
株式会社SUBARU 第一技術本部 先進安全設計部 主査3 久保 貴嗣
今月の語った人
株式会社SUBARU 第一技術本部 先進安全設計部 主査3
1980年愛知県生まれ。大学院で脳科学を専攻し、義手に脳神経の指示を伝えるインターフェイスの研究で博士号を取得。その後は企業でロボットやパーソナルモビリティの開発に関わる。2014年にSUBARUに中途入社。入社後まもなくアイサイト・ツーリングアシストの開発に関わる。趣味は全国の花火大会を訪ねて花火を撮影すること。早い時間からベストな撮影場所を求めて会場に向かう。帰りの渋滞ではアイサイトが役立つのだとか。
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