クランクシャフトはエンジンブロックに両側から挟まれるようにして保持されて回転する「ジャーナル」と、ピストンの往復運動を伝えるコンロッドの大端部が連結される「ピン」、そして「ピン」と「ジャーナル」とをつなげる「ウェブ」という板状の形をした部分からできているひとつのパーツです。屈曲した軸を持つこの複雑な形状は、一本の円柱状の鋼材を熱してプレスする鍛造という加工によって作っています。
水平対向エンジンのクランクシャフトの特長は、全長を短くすることができる点にあります。一般的な4気筒の直列エンジンの場合、ピストンが一直線に4つ並んでいるため、少なくとも「ピストンの直径×4」の長さが必要になります。水平対向エンジンはピストンが左右に振り分けて配置されているため、「ピストンの直径×2」の長さを確保すれば、4本のピストンをレイアウトすることができます。
2.0L、2.5Lの4気筒FB型エンジンのクランクシャフトは、全長350mm、重さは12kgで、同排気量の直列4気筒エンジンのクランクシャフトと比較すると全長で13〜15%短く、重さは25%ほど軽くできています。
クランクシャフトが短くて軽ければ、エンジンブロックもコンパクトに軽く作ることができ、それはクルマの運動性能を高めることにつながります。低重心、低振動等水平対向エンジンのメリットは他にもありますが、「クランクシャフトをコンパクトにできること」は、走りの良さや燃費に直結する最大の特長と言って良いでしょう。
FB型エンジンでは、この長所を最大限に活かすため、「ウェブ」の厚さを7mm(一般的な直列エンジンでは20〜25mm)にまで薄くしています。ウェブにはピストンの往復運動で発生した振動を打ち消すための錘[おもり]としての役割もありますが、水平対向エンジンは左右のピストンが互いの振動を打ち消すため錘としての役割は僅かで済むので、ここまで薄くできるのです。
加工面からお話すると、一般的なクランクシャフトの場合、ウェブの加工は鍛造処理のみで済むのですが、SUBARUの薄いウェブはより高い寸法精度としっかりと焼き入れをして強度を上げることが求められるので、鍛造成型の後に研磨や部分的な熱処理等の機械加工が必要となります。そのため、一般的なクランクシャフトよりも加工箇所が約3割多いのですが、SUBARUでは1966年のEA型以来50年水平対向エンジンを作り続けてきた過程で得たさまざまなノウハウにより、生産時間の短縮と加工精度の向上を図っています。
一例を挙げると、クランクシャフトジャーナル部を削って鏡面のように滑らかに仕上げる加工の際、一般的には一方向からのみ削っていくのですが、SUBARUでは「同時加工」と言って、上下2方向から削っています。これはノウハウが無ければできない加工なのですが、私たちの工場では培ってきた生産技術の蓄積によって、この難しい加工を採り入れることを可能とし、時間を短縮しながら加工精度も高めています。
クランクシャフトはエンジンの内部にあり、実際に見ていただくことができないのが残念ですが、一般的な直列エンジンのクランクシャフトと比較すると、SUBARUのクランクシャフトがいかにユニークかがひと目で分かります。先ほどご紹介したウェブの薄さとその表面が綺麗に磨かれているところは、水平対向エンジンならではのものです。このことから、水平対向エンジンのクランクシャフトを「かみそりクランク」と呼ぶ人もいます。
SUBARUだから量産できる、極めて薄いウェブを持つクランクシャフトが、水平対向エンジンのメリットを最大限に発揮するSUBARUらしい走り味を生み出します。この走りをさらに洗練させるべく、これからもさらに技術開発を進め、より薄いウェブを持つコンパクトなクランクシャフト作りに挑戦していきます。
今月の語った人
株式会社SUBARU
製造本部 群馬製作所 第3生産技術部
エンジン加工技術課 担当
1975年千葉県生まれ。落花生畑を眺めながら育つ。小さい頃から超合金やラジコン等機械的な香りを持ったものが好きで、学生になってからはオートバイやクルマのカスタマイズやチューニングを趣味とし、10年ほど前からロードバイク(自転車)を楽しんでいる。月に2回ペースで知人や娘さんと一緒にサイクリングに出かける。お気に入りのコースは、筑波山、赤城山、利根川沿い。自転車を趣味として良いところは、自分でチューニングする楽しみがあり、乗れば景色を楽しむこともできてさらには健康増進にもなるところ。現在3台のロードバイクを持っており、お気に入りはイタリアのブランドKUOTA(クオータ)のモデル。
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