SUVは悪路も走破できるように車高を高くしています。そのため車両の重心が高くなり、オンロードでの操縦安定性や乗り心地の良さを追求したセダンと比較すると、走行時の揺れが大きくなります。また、人や荷物を満載しても悪路をしっかりと走行できるようにサスペンションも硬くセッティングしてあるため、ゴツゴツとした乗り心地になり、疲れや酔いの原因にもなります。
SUBARUでは、シンメトリカルAWDを用いることで、優れた悪路走破性と積載性を持ちながら、セダン同様の操縦安定性や乗り心地の良さを持つSUVを開発してきました。そのようなSUVを実現するために私たちが追求しているのは、“いかなる状況でもドライバーの意思に忠実に動く操縦安定性”と“普段運転している時の快適性”です。
操縦安定性を確認するために行なっている試験のひとつがフィシュフック試験です。これは時速56〜80kmで走行中にステアリングを大きく左右にきるという試験で、重心の高いクルマや足回りが弱いクルマは横転してしまいます。日常的な運転ではこんな極端な操作はしませんが、高速走行中に前方に障害物が現れたときに回避するような場面では必要な操作です。今は横滑りなどクルマの不安定な挙動を抑える安全装備(以下VDC)などの電子制御技術が向上しているので車両の操縦安定性を極める必要はないという考えもあります。しかしSUBARUではベースとなる操縦安定性を極め、さらに限界に近いところでVDCで安定領域に戻すという考え方で開発しています。ベースとなる操縦安定性が低いとVDCが早い段階で介入するため、先の事例のように咄嗟の回避操作が必要なときにドライバーの意思通りにクルマが動かないということもあるからです。SUBARUでは、車高の高いSUVでもこの厳しい試験を行ない、限界領域での安全性・安定性をしっかりと確保しています。
普段運転しているときの快適性を向上するために私たちが特に重視しているのが、直進走行時の安定性です。走行中のクルマは路面からのさまざまな影響を受けているため、直進安定性が悪いと、ドライバーは無意識にステアリングを修正操舵して直進を保持しています。これは運転の疲れの一因にもなるため、SUBARUでは修正舵が少なく、ドライバーの意思通りに直進走行できるクルマを追求しています。直進安定性を確認するために行なっているのが、すべての道路環境を再現した舗装試験路での走行試験です。上記の写真でポインタで示している継ぎ目は、首都高速で用いられている路面の継ぎ目を再現したものです。このような凹凸が繰り返す路面で、ドライバーの意思通りに走ることができるか、乗員に不快な振動や騒音はないかなどを確認していきます。テストは乗員数を変更しても実施します。特にSUVの場合は同乗者や荷物の有無、ルーフキャリアの積載物や牽引などによって車両の重さが変化するので、さまざまな使用状況を想定し、試験車のコンディションを変えて試験を行なっています。タイヤも純正タイヤに限らず、市販のスタッドレスタイヤや摩耗したタイヤを装着した状態での検証も行ないます。
これらの試験を繰り返すことで、“どんな路面状況においても四輪を接地させてタイヤの性能を効率良く使うこと”を目指しています。四輪が常に路面に接地していれば、ドライバーの意思とクルマの動きとのズレが減り直進安定性を高めることにつながり、修正操舵も必要無くなります。クルマの挙動が安定すると、同乗者の快適性も向上します。この直進安定性の良さ、快適性は、試乗でも体感していただけます。お店でご試乗頂いた後、もう一度同じコースをご自身のクルマで走ってみてください。特にスバルグローバルプラットフォームを採用したモデルではその違いをハッキリと感じていただけるはずです。
今月の語った人
第一技術本部 スバル研究実験センター 車両研究実験第一部
車両研究実験第二課 担当
山梨県中央市で生まれ育つ。実家は兼業農家で、小さい頃から農作業用のトラクターや軽自動車を見て育ったため、乗り物を操作することが大好きになった。中学2年のときに見たWRCで活躍するインプレッサに一目惚れしてインプレッサファンとなり、大学では自動車部に所属。その後、SUBARUに就職。スバルドライビングアカデミー*第1期生となり、再び限界領域でのドライビングを行なうようになる。"運転がうまくなるためには、体を鍛えることも必要”をモットーにジム通いを始めた。その一方でラーメンが好きで、オフの日には一人食べ歩きに出かけている。
*超高速領域や限界領域での車両コントロール技能を習得する走行訓練などをつうじて、エンジニアが同じような基準でクルマをきちんと評価できる能力を高めようという取組み。
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