重田:SUBARU XV Advanceの特別仕様車Advance Style Editionの発想の出発点となったのは2017年の東京モーターショーで公開したSUBARU XV FUN ADVENTURE CONCEPTです。コンセプトモデルでは、身体全体で大自然を満喫できる、アウトドアでアクティブなライフスタイルを後押しするクルマを狙いましたが、今回はSUBARU XVが本来持つ「CROSSOVER」としてのキャラクターを強調しました。都市景観にマッチするデザインを意識して、外装パーツにはグレーカラーのコーディネートで、若者のサブカルチャーやファッション感覚を、グレー使いに取り入れながら表現しています。インテリアは、ブラックにグレーを組み合わせ、モダンでスポーティなイメージを構築しました。アクセントにイエローステッチを採用することでワクワクする気分を盛り上げます。イエローは、若々しさや軽快で快活なイメージを象徴する色でもあります。モチーフとしたのは、登山などで使用するアルマイト製カラビナの「キラっと光る」イエローで、その色をベースにより若々しいイエローにチューニングしました。イエローのラインがシートやインストゥルメントパネルを走りぬける様子は、軽快な走りを表現。ドアを開けた時、「SUBARU XVで思わず出かけたくなる」気持ちを高めてくれることを狙っています。さらにインパネ加飾、メーターバイザーリング、フロントドアトリム、エアコンベントグリルなどベース車両でシルバー塗装を施している部分を、すべてブラックラスト塗装に変更しました。ブラック内装の中に輝くダークメタルの塗色が加わることで、塊感のある造形をより立体的に見せ、ブラックインテリアのモノトーンの世界に広がる横方向のデザインモチーフ(インパネ加飾)の存在をアピールし、イエローステッチを引き立たせる効果があります。
萱野:設計として苦労したところは、デザイナーが求める際立ったイエローを発色よく量産車で実現することでした。イエローステッチはシート、シフトブーツ、本革巻ステアリング、ドアやインパネのトリムに施されています。シートやステアリングは材質がトリコットという編み物や合皮で作られているために、縫製もしやすいのですが、インパネのトリムには粘り気のある特殊な材質を使っているため、同じ糸で縫うと撚り戻りが生じてしまいます。シートと同じ美しいステッチを再現するために、特殊な加工を施した性能の異なる糸を使っているので、仕上がりの色や艶の微妙な差異を合わせなければなりません。染料の規定濃度の中で色の配合を変えた糸を何パターンも作って、インパネの材質と縫い合わせ、シートステッチと同じ色に仕上がるものを追求しました。また、明るい色になればなるほど太陽光によって退色しやすくなるため、デザイナーやサプライヤーの方々とも相談しながら、耐候試験を繰り返し、陽光に強いものを見極めていきました。これらの様々な要件をクリアしながら、デザインが求めている輝度の高いイエローを実現するのは非常にハードルが高く、幾度か試験を繰り返しましたが、デザイナーの思いを形にしてお客様に喜んでいただくことを目指し、皆が力を合わせて納得いくまで開発を続けました。
もう一箇所、非常に神経を使ったのがマルチファンクションディスプレイバイザー部分のステッチです。この部分は鋭角になっており、その先端部の造形に合わせて表皮をぴたりとかぶせ、縫い目を直線にきれいに通して仕上げるのが非常に難しいのです。製造、組み立ての際に許される誤差を厳しく設定し、生産ラインのみなさんにも協力してもらうことで、きれいなステッチを実現することができました。今回の内装は、デザイナー、設計者だけでなく、サプライヤーや量産ラインまで、オールスバルがひとつのチームとなって実現したものです。
今月の語った人
デザイン部 CMFデザイン課
3年ほど前に久しぶりに出生地伊勢崎で暮らし始めたことをきっかけに“銘仙織出す伊勢崎市”と上毛かるたにも歌われる、伊勢崎の織物業について改めて学び始める。二人の娘さんと一緒に「伊勢崎織物会館」、「いせさき明治館」、「県立日本絹の里」などを訪ね、伊勢崎銘仙の高度な技法“併用絣“について調べている。
内外装設計部 内装設計第一課
絹織物で栄え「桑都」と称された東京都八王子市出身。小学生の時に自宅で大量の蚕を飼って繭をとった経験を持つ。2016年、SUBARUに入社して群馬県に住み始めてからは、友人と一緒に群馬の自然・風物に触れる旅を楽しんでいる。お気に入りは自然の景観が美しい榛名山エリア。太田に初めて来たときに食べた、太田名物黒焼きそばも衝撃を受けた。
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