ハーマンカードンはオーディオの権威であるシドニー・ハーマン博士が1953年にニューヨークに設立したオーディオブランドで、優れた音響と先進的なデザインの融合により世界の音楽ファンから支持され、カーオーディオとしても高い評価を得ています。SUBARUでは4代目レガシィの北米仕様を皮切りに国内では5代目と7代目レガシィにメーカー装着オプションとしてハーマンカードンサウンドシステムを搭載。以来、カーオーディオ開発のパートナーとしてハーマンカードンと10年以上共に研究開発を続けてきました。新型SUV、レヴォーグ レイバック(以下レイバック)では最新のハーマンカードンサウンドシステムを標準装備として搭載。乗る人全てに高品位で臨場感あふれるステレオサウンドを提供しています。
私たちが追求している音づくりは開発の初期から一貫して変わりません。第一にmp3など圧縮音源からラジオ、CDまで、どのような音源からでも“原音を忠実に再現すること”。また、“インパネ上をステージに見立て、そこから乗員に向けて音が鳴っているような臨場感のある音響空間を造ること”です。そのための手法として今回も従来と同様の考え方でパーツを配置していきました。具体的にはインストルメントパネル上部の左右に、高域の16㎜スピーカーと中域の80㎜スピーカーを同軸上に配置したユニティスピーカーをレイアウト。前席左右ドア内部には低域音を発生する7×10インチ楕円形ミッドウーファーを設置。さらに後席左右ドア内部に170㎜スピーカーと25㎜ツィーターを同軸上に配置したコアキシャルスピーカーをレイアウトして低~高音域を発生させています。
今回の課題は左右フロントドアに内蔵したミッドウーファーのチューニングでした。アウトバックなど、これまでのハーマンカードンサウンドシステムでは、カーゴルーム左側に超低音域を発生する200㎜のサブウーファーを設置していたのですが、荷室容量を拡大してカーゴルームのユーティリティ向上を目指したレイバックでは、このサブウーファーを使えなくなったためです。そこで、ミッドウーファーで従来より低い帯域の音を出せるようにするべく、ハーマンカードンのエンジニアと一緒に時間をかけてアンプの出力を調整していきました。出力を上げすぎて低音が立ちすぎてしまうと、バランスが崩れて私たちが大切にしている“インパネ上をステージに見立てた音響空間”が破綻してしまうので、ランダムにセレクトした様々な音源を繰り返し聴きながらチューニングを重ねていきました。開発時には特定のジャンルに偏ることなく、世界各地のバリエーション豊かな音を聴くのですが、今回は日本向けのレイバックでしたので、ヴォーカルの多い日本の楽曲の比率を高くしてチューニングしました。
もう一点、インストルメントパネル上部のユニティスピーカーのレイアウトも、今回苦労したところです。この2つのスピーカーは“インパネ上をステージに見立てた音響空間”を実現するために重要な役割を担っています。ポジションを左右の端に寄せれば寄せるほど臨場感のある音造りができます。アウトバックと比べて室内幅が小さいレイバックでは少しでも外側に配置したいというのが私たちの思いでした。ところが当初のデザイン案では、搭載位置が車両中心方向に寄ってしまっていました。そこで私はその位置に穴を開けてスピーカーを取り付けた試作モデルを造り、様々な部署の人に音を聞き比べてもらったのです。すると、わずかなポジションの違いですが、ライブ会場の最前列に居るのと最後列に居るのとの違いほどにも臨場感が異なることが分かり、皆さんに納得していただいた上で私たちの案が採用されたのです。このように、“開発において迷いがあれば、現地・現物に当たって確かめる”というのが、SUBARUのエンジニアが昔から実践してきた手法です。シミュレーション技術が進んだ現在も、そのモノ造りの基本姿勢は変わっていません。
今月の語った人
株式会社SUBARU 技術本部 E&Cシステム開発部 E&C性能開発第二課
佐賀県生まれ。SUBARUに就職して群馬県に転居すると、近くに多々良沼という湖沼があったため、SUBARUとの出会いに運命的なものを感じたそう。同期入社の仲間の誘いでスノーボードを始める。群馬県にある丸沼高原を始め、これまでに福島、新潟、北海道のゲレンデに出かけた。お気に入りは地形を生かした複数の沢があってテクニカルな滑降が愉しめる野沢温泉スキー場。夏季は埼玉県にあるトレーニング施設“埼玉クエスト”で練習し、ジャンプして空中で左回りに一回転する技“バックサイド360”をマスター。現在は同じく右回りに一回転する“フロントサイド360”の完成に向けて仲間と一緒に練習を重ねている。
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