私が勤務しているSUBARU群馬製作所大泉工場では、現在輸出車も含め世界を走っているすべてのSUBARU車のエンジン部品を加工しています。今回は私が加工を担当しているエンジンのコネクティングロッド(以下コンロッド)についてご紹介します。
コンロッドはエンジンの燃焼室で燃料を燃焼することで発生するピストンの往復運動をクランクシャフトの回転運動に変えるという重要な役割を担っています。コンロッドの一方の端には小径の輪(以下小端部)があってピストンに繋がっています。もう一端には大径の輪(以下大端部)があり、こちらはクランクシャフトと繋がっています。
クランクシャフトは複数(4気筒エンジンなら4本)のコンロッドが繋がって、大きな回転運動を発生し、その力がトランスミッションやドライブシャフトなどのパワートレインを伝わって、タイヤを回転させる力になります。
複数のコンロッドの力を効率良くひとつにまとめるクランクシャフトは、一直線ではなく屈曲した軸を持つ複雑な形状をしています。また、各コンロッドが取付けられる部分の間には回転によって発生する振動を抑えるための羽根のような形の重りがあるため、小端部のように横からピンを通すようにしてコンロッドを組付けることができません。そこで、コンロッドの大端部をふたつに分割してクランクシャフトの取付け部を挟むようにして取付けます。分割して組付ける半円形の部品をキャップと言います。
一般的な直列エンジンはピストンが垂直方向に並んでいるので、エンジンブロックの中にピストンとコンロッド、クランクシャフトを組付けて、下からキャップを取付けてエンジンを組立てることができます。しかし、SUBARUの水平対向エンジンの場合は、ピストンが左右からクランクシャフトを挟み込んでいるため、キャップを取付ける際にボルトを入れるスペースがとれません。そこでFA型、FB型水平対向エンジンはコンロッドの形状を工夫して大端部を斜めに分割し、組立てる時にはクランクシャフトを回転させながら、斜め下からボルトを組付けられるようにしました。そのため、SUBARUのFA型、FB型エンジンのコンロッドはご覧のように独特な形をしています。(写真:最下部のコーナー)
コンロッドの良し悪しは“いかに滑らかに無駄なくピストンの往復運動をクランクシャフトに伝えるか”で決まります。質の高い走りを生み出すためにはコンロッド本体(ロッド)とキャップとの繋ぎ目が滑らかで、強固に繋がっていることが重要です。そのためFA型、FB型エンジンは、予め一体で鍛造成型したコンロッドの大端部を、鉈で割るようにカットしてキャップと分離する加工方法(カチ割りコンロッド)を採用しています。狙った場所で割れるようにレーザーで僅かな切れ目をつくり、それをキッカケにして引きちぎるように分割すると、切断面に細かい凹凸ができます。この凹凸の位置や形状はパーツ一つひとつによって違うため、世界にひとつしかないペアパーツが出来上がります。その結合力は非常に強く、一度組合わせるとボルトで繋いでいなくても人の力では外せないほどです。
この加工方法により、クランクシャフトへ組付ける時にコンロッド大端部の形状の僅かな狂いも防ぐことができ、常にクランクシャフトとコンロッド大端部とのクリアランスを一定に保ち、回転時の摩擦による損失を最小限に抑えます。
現在、SUBARUでは、車種のキャラクターに合わせて8種類のコンロッドを作っています。外からは見えませんが、走りに関わる重要なパーツだけに、そこまで緻密な作り分けをしているのはSUBARUならではだと思います。
今月の語った人
株式会社SUBARU
製造本部 群馬製作所 第3生産技術部
エンジン加工技術課 担当
1982年東京都生まれ。埼玉県朝霞市で育つ。朝霞市は東京への通勤圏だが、自然環境も豊かで、小学生の頃は近所でザリガニやクワガタ、カブトムシを採ることができた。SUBARUに就職して群馬県に住み始めてからは、スノーボード、ゴルフ、登山など幅広くアウトドアアクティビティを愉しむようになる。「変わったことにチャレンジしてみたい」と、最近になって職場の友人に誘われてサバイバルゲームも始めた。また、世の中の動きと連動している株や金融にも興味を持っているという。次にトライしてみたいのはドローン操縦。
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