3点式シートベルトは、ベルト=『ウェビング』と、T字型の差し込み金具=『タング』、そのタングをはめ込む受け側の留め具=『バックル』で構成されています。
ピラーに格納されているウェビングは着用時に手で引っ張ればスルスルと繰り出されますが、衝突の際はその動きを止める機能が働いてロックされ乗員をシートに拘束します。さらに激しい衝突時はウェビングを引き込む、プリテンショナーが働いて初期の拘束性を高めます。3点式シートベルトはこれらの機能により乗員の頭部がフロントガラスやステアリングに衝突するのを防ぎます。しかし衝突エネルギーが大きくなると、シートベルトによる胸部への圧迫が強くなり、乗員にダメージを与えてしまいます。これを防ぐため、ウェビングに所定以上の荷重がかかるとロック機構を緩めるフォースリミッターが働いて、胸部圧迫を軽減します。更に“ロッキングタング付シートベルト”は、タングの内部に組み込まれた金属パーツ『ロッキングバー』がウェビングを挟み込んでロックし、ウェビングの動きを止めます。
前面衝突の際、ウェビングを通しているだけの従来のタングでは腰が前に出ようとする動きによって腰部のウェビングが上半身のウェビングを引っ張ってしまい、胸部の圧迫を強めてしまうのです。ロッキングタングはウェビングの動きを止めて、それ以上腰側に引っ張られないようにして、胸部の圧迫を軽減します。
ロッキングタング付シートベルトは、まだそれほど普及していませんが、SUBARUでは2016年に発売したインプレッサで運転席、助手席とリヤ左右席に全車標準装備として初採用しました。その後SUBARU XV、フォレスターにも全車に標準装備とし、その他のモデルについても、モデルチェンジのタイミングで順次採用していく予定です。その背景には「リアルワールドにおいて、乗る人すべてに安全を提供したい」というSUBARUの安全への思いがあります。
実際に世の中で発生している事故を詳しく分析すると、事故の際に致命傷となった損傷部位で最も多いのが胸部へのダメージでした。以前は頭部へのダメージが多かったのですが、SRSエアバッグシステムなど、乗員拘束装置の性能が向上したことにより、その割合が変わってきたのです。
たとえば時速55kmで前面衝突した場合、シートベルトによって胸部にかかる荷重は2.5kN(約250kg)となり、それによって胸部は20mm押し込まれます。また、同条件で年齢や性別でダメージの度合いを比較したデータでは、45歳の男性に対して65歳以上の女性は胸部受傷により重傷となる割合が1.6倍程度高くなります。
最新の日本の自動車アセスメント(JNCAP)では、後席に高齢女性のダミーを搭載した評価を行なっており、後席の安全性も注目されています。SUBARUも、衝突時に上半身への負担を減らすための取組みに力を入れてきました。世界各国で行なわれる自動車アセスメントにおいて、SUBARUが常に高い評価を得続けている背景には“リアルワールドで役に立つ衝突安全技術の開発”があるのです。
SUBARU XVでは私はリヤ席のシートベルトを担当しました。設計時に意識していたのは、誰もが窮屈に感じることなく正しく装着できることです。6歳の子供から大柄な男性までどんな体格の方でも正しい位置に装着できるよう、引き出し口の高さや形状を工夫して、装着時に首に掛からないようにしています。ぜひお店で装着していただき、装着性の良さと、しっかりベルトに守られている安心感をご体感いただきたいと思います。
今月の語った人
第一技術本部 内装設計部
シート設計課
東京都町田市で育つ。小さい頃から工作が好きで技術系の大学に進学。学生時代は航空工学研究会に所属して“鳥人間コンテスト”に挑戦した。プロペラのない滑空機部門にエントリーし、翼を担当して製作した機体は重量バランスが悪く、飛び出してすぐに落下。記録は21mだった。翌年は書類審査で落ちて本番にはエントリーできなかったが、テストフライトで100mの滑空に成功したという。就職してからは、同期の仲間と一緒にスキー、スノーボードに出かけたり、課の皆とゴルフに出かけたりと、競うことよりも仲間と過ごす時間を楽しんでいる。
バックナンバー