NEWフォレスターのドライバーモニタリングシステム(以下DMS)は、従来からの「わき見判定時の警報」、「眠気、居眠り判定時の警報」、「個人認識によるおもてなし」の3つの機能に加え「ジェスチャーによる空調コントロール」という新機能をプラスしました。この機能は、ドライバーが手をステアリングからごく近い位置にかざし、パーの形にするとエアコンの温度設定が2℃上がり、グーの形にすると2℃下がるという制御です。DMSがドライバーのジェスチャーを認識するとセンターパネル上部にあるマルチファンクションディスプレイがピッという認識音を出し、エアコンの設定温度が変わります。DMSは暗闇でも識別性能を発揮する近赤外線カメラとドライバーを照らす近赤外線LED、それらを制御するECUで構成されていますが、今回はLEDのレンズを従来よりも広くしました。身長150cmのドライバーと190cmのドライバーとではドライビングポジションが異なり、ステアリングを握る位置も違ってきます。どんな体型のドライバーが使っても違和感のないジェスチャー操作を検知できるようLEDの画角を拡大する必要があったからです。その他のハードウェアは従来と同じですが、ソフトウェアは従来よりも認識性能を向上したものに改善しました。
DMSは2018年にSUBARU車で初めてフォレスターに搭載し、その後レヴォーグなど他モデルにも拡大展開してきました。今回フォレスターの大幅改良に合わせて、DMSにも新たな機能をプラスしようということになり、先行開発を続けているさまざまな制御の中からジェスチャーによる空調コントロールを選択し、量産化を実現しました。空調の温度コントロールをスイッチ操作で行なう場合、スイッチの場所を確認してから手を伸ばし指で操作する必要があります。これをワンアクションでできる手のジェスチャーに置き換えれば運転中に前方から視線を外すことなく、ステアリングから手を離す時間も減らすことができ、安全性と利便性を高めることができます。SUBARUが追求している“安心と愉しさ”につながる機能でもあるので、今回はこれを採用することにしました。ハンドジェスチャーには文化によってさまざまな意味があるため、不要なトラブルをまねくことがないよう世界各地のハンドジェスチャーの意味を調べた上で、どの国の方にも親しみのあるパーとグーを選びました。
開発時に意識したのは “ドライバーに不要な煩わしさを感じさせない”ということでした。後退時や大きくステアリングを切っている時などドライバーが本機能を使うことが考えにくい場面では、制御をオフにします。運転操作中に意図しないシグナル音が鳴るとそれは煩わしさに感じられるからです。同様の理由からジェスチャーの誤認識を防ぐという課題には今回最も時間をかけて取り組みました。運転中、ドライバーはさまざまな動作を行なっています。ナビ画面を操作する、頭をかく、サングラスを装着する、譲ってもらった他車にお礼をするなど、それらの動作を誤って温度調整のためのジェスチャーと認識しないよう、複数のドライバーに実際に運転してもらって、まぎらわしい動作を数十種類以上洗い出して細かく分析し、誤認識しないよう試験を繰り返しました。また、安全への配慮としてジェスチャー操作を繰り返して不必要にステアリングから手を離す時間を伸ばすことが無いよう、一度ジェスチャー操作を認識した後は手のひらをステアリングに戻すまでは次のジェスチャー操作を認識させないようにしています。
自動運転への流れが進んでいく中で、ドライバーの状態を常に見守るDMSは欠かせない装備です。さまざまな発展可能性を検討していますが、どんな機能にしても人間工学的な視点からの検証を徹底し “ヒトを中心に考える”ことを大切に開発するのがSUBARUらしいところです。
今月の語った人
技術本部 コネクティッドカー開発部
コネクティッドカー設計第一課
福岡県出身。大学院卒業まで福岡で過ごす。故郷のご自慢は新鮮な地元食材を使った食べ物。今でも里帰りしたら博多ラーメンやお刺身、肉料理を食べるのが一番の楽しみだそう。温泉でのんびりと過ごすひとときが大好きで、SUBARUに就職してからは関東近県の温泉地に出かけた。特に印象的だったのが冬に訪れた草津温泉。湯畑など温泉街の雰囲気も独特で、雪景色の露天風呂は九州の温泉地では体験したことが無かったそう。
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