和田:スバルグローバルプラットフォームは、前面衝突に対してはキャビンより前側が潰れることで荷重を吸収するクラッシュゾーン、キャビン側はクラッシュゾーンで吸収しきれなかった荷重に耐えて乗員を守る強固なキャビンゾーンとしています。クラッシュゾーンでは左右に配置されたフロントフレームが折り畳むようにして潰れることでエネルギーを吸収します。その際、中空のフレームの太さや内側の形状、板厚、配置を緻密に計算し、どんな方向からの荷重に対しても同じように潰れて効率的にエネルギーを吸収できるようにコントロールしています。また、衝突時にはエンジンはキャビン下側に滑り込むように脱落させることで、キャビンゾーンへの侵入を抑制します。フロントフレームが段階的に折り畳まれていくモードと、エンジンが移動する動きを連動してコントロールすることで、衝突時の減速Gを抑制し、乗員への負担を軽減しています。
小川:側面衝突に対しては、室内空間の変形を抑えて生存空間を確保するというのが基本スタンスです。その際重要な役割を担うのがセンターピラーです。レガシィアウトバックのセンターピラーはテーラード・ウェルド・ブランクという工法技術で、異なる特性を持つ2種類の鋼板を溶接した部材でできています。乗員の腰より上のエリアには軽くて強度の高い高張力鋼板を用いて侵入量を抑え、腰から下の部分にはある程度の柔軟性を持った部材を使い、破断させずに安定して変形させるように変形モードをコントロールしながら最小限の変形でピラー全体の侵入量を低減しています。また、ピラー下部のサイドシルとの結合部は狭いピッチでスポット溶接を行なって負荷を分散し、破断しないようにしています。さらに、あらかじめボディのインナーフレームを組み上げてからアウターパネルを組み付けるフルインナーフレーム構造を採用し結合構造を連続的にしたことで、サイドシルのボディ側への侵入を抑制する効果を発揮します。
和田:※2030年に死亡交通事故ゼロを目指すというSUBARUの目標実現に向けて、今後アイサイトの先進運転支援システムなどADASを圧倒的に進化させていきます。それでもADASだけですべての事故形態に対応できるわけではなく、最終的に避けきれなかった衝突事故に備えてボディの衝撃吸収性能を高めることが必要です。一方、これから電気自動車が増えて車両重量が増加することを考慮すると、衝突時にボディで吸収しなければいけないエネルギー量は年々増えていくものと想定しています。そこに対応するためには、先にご説明したスバルグローバルプラットフォーム+αの構造が必要でした。その+αに相当する部材として、今回レガシィ アウトバックに追加採用したのがセカンドロードパスです。
これは、従来のスバルグローバルプラットフォームのフロント部分の下部に鉄製のロアビームを追加し、そこからサイドフレームとをつなぐように下部に追加した左右のサブフレームで構成されます。この空間は排気管レイアウトや前輪の切れ角、最低地上高に影響する場所ですから、フレーム形状と配置には特に気を遣いました。
セカンドロードパスは一定の荷重が加わると変形してエネルギーを吸収します。これにより衝突初期のエネルギー吸収量を増やしています。従来のフレームと連携して衝突荷重を分担することで、より大きなエネルギー吸収量を確保することができます。また、衝突時に相手車両への加害性を軽減するという役割も担っています。衝突試験で使用したアルミハニカム台車を比較すると、従来は部分的に強い力が加わって大きな損傷があるのに対し、セカンドロードパスを用いたボディでは相手車両に対してもより平均的、平面的に圧縮させるように制御されていることが分かります。
今月の語った人
株式会社SUBARU 技術本部 車両安全開発部 衝突安全第四課
オーストラリアメルボルン生まれ。3歳頃には広島に転居し、小学生から大学まで千葉県千葉市で暮らす。親がSUBARU好きだったため、常にSUBARUを身近に感じて育ちクルマ好きとなる。大学時代にはクルマのブレーキについて研究。心地よいブレーキとは何か?を考える。自動車メーカーで働くなら好きなSUBARUと思い、SUBARUに入社。
株式会社SUBARU 技術本部 車両安全開発部 衝突安全第二課
群馬県太田市生まれ。小学生から大学まで野球を楽しむ。小学生時代にはリトルリーグの太田ボーイズに所属し、年次は異なるがその後甲子園やプロ野球でも活躍した正田樹選手、一場靖弘選手らと共に汗を流した。大学時代、二年生から軟式野球に移り、最高成績は全国ベスト4。今もたまにSUBARUのメンバーと共に草野球を楽しんでいる。
この画像は、SUBARUのテレビCM「一つのいのち 一台のSUBARU」からの1カットです。フロント部分が大破したレガシィ アウトバックの映像に驚かれた方も多かったのではないでしょうか。衝突で潰れたボディは、ともすると見る人に自動車に対するネガティブな印象を与えかねないため、これをCMに使って良いものかどうか、制作途中において悩むところもありました。しかしSUBARUが心血を注いで取り組んでいる衝突安全性能を自信を持ってお客様にお伝えしたいという想いは全てのスタッフが共有しており、その技術を象徴する画像として、皆様にご覧いただくことにしました。
このCMは※2030年に死亡交通事故ゼロを目指すSUBARUが、その目標を実現するために行なっている取り組みをご紹介していくシリーズ広告「一つのいのち 一台のSUBARU」の第三弾です。昨年6月オンエアした第一弾では2030年に死亡交通事故ゼロを目指すというSUBARUが命を守り抜く目標を宣言し、続く第二弾ではアイサイトなど、事故を未然に防ぐ先進の予防安全システムについて紹介しました。続く第三弾の本篇はSUBARUの衝突安全性能に対する強い想いと、その優れた技術をお客様にお伝えするために制作し、7月からオンエアしています。
ストーリー構成は、前半で躍動する少女の姿を通して輝く命の素晴らしさを表現し、後半ではフロント部が大破したボディから何ごとも無かったかのように降りてくる少女をご覧いただくことでSUBARUは貴い命を守り抜くということを伝えています。撮影に使った車両はJNCAP「自動車安全性能2021ファイブスター大賞」を受賞した時の衝突試験で実際に使用したもので、私も撮影前の企画検討時に現物を見に行きました。フロントのクラッシュゾーンが壊れることで衝突エネルギーを吸収し、強固なキャビンゾーンを守るということが頭では分かっていても、想像以上にフロントが潰れていたので驚きました。ところがそんな状態でもドアは普通に開けることができるし車内もエアバッグが展開していることを除けば、普通のクルマとほとんど変わりません。衝撃を受けて激しく損傷したフロント部分としっかりと守られたキャビンをシンプルに対比させてご覧いただくことで、SUBARUの衝突安全性能を実感していただけると思いました。
今回のCMを制作するにあたり、事前に衝突安全性能開発スタッフに話を聞きました。車両の開発にはデザインや空間の制約、コストなどさまざまな要件がある中で、SUBARUでは伝統的に"命を守ること”を何よりも優先して技術開発を行なってきたことや"事故に遭ったけれどSUBARUに乗っていたので助かった”というお客様からのサンキューレターが世界各地から多数寄せられているということ。そのようなレターを見たエンジニアたちは"命を守り抜く”という気持ちを日々新たにしながら仕事に取り組んでいることが分かりました。開発エンジニアの言葉から、衝突安全性能はSUBARUの技術的な資産であり、強みであることをひしひしと感じました。SUBARU車が一台でも多く世の中に出て行くことで、確実に守られる命、助かる命がある。そんな私たちの思いをしっかりと伝えたい。今回のCMはそのような経緯で制作されたものです。
映像表現において最も重視したのはリアルであること。中でも冒頭の"輝く命”を見せるシーンはわざとらしくしたくありませんでした。最終的にオーディションで選ばれたのは中学一年生の椿さんでした。5月に事務所に入ったばかりで彼女にとって初めての仕事が今回のCMでした。そのためかオーディションに参加していただいた他のどの方よりも演技感がなく自然体でした。衝突試験で実際に使ったボディと同様に、若く輝く命をリアルに伝えるために、彼女の存在は欠かせませんでした。こんなエピソードも今回のCMに込められたSUBARUの真摯な思いを象徴していると思います。
今月の語った人
株式会社SUBARU 国内営業本部 マーケティング推進部 宣伝課
滋賀県栗東市生まれ。学生時代も含めて同市で生まれ育つ。琵琶湖の南東部に位置する栗東市は日本中央競馬会の栗東トレーニングセンターがあることから「馬のまち」として知られている。地元でおすすめのドライブルートは琵琶湖畔一周ドライブ。近江舞子などリゾートエリアや北部には山岳エリアもあって、変化に富んだ風景を愉しめる。石山寺、比叡山延暦寺など歴史遺産も豊富。グルメなら近江牛がおすすめ。最近は8歳になったお子さんと朝早く起きて親子で日帰り山登りを愉しんでいるそう。最近登った中では東京・奥多摩の御岳山や箱根の金時山が愉しかったという。
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