2.0L DOHC直噴エンジンとモーターを組み合わせたe-BOXERは、エンジン駆動をベースにエンジンとモーターを最適に制御し、街中から高速道路までさまざまなシーンで軽快な加速を提供します。今回、新型インプレッサに搭載するにあたって更なる進化を遂げました。
開発時のテーマは振動・騒音を抑えて静粛性を高めることと、低フリクション化による燃費向上でした。従来型のe-BOXERを社内の第三者で評価をしたところ、エンジン音のないEV走行時にリニアトロニックの作動音が気になるという指摘がありました。音の発生源をたどっていくと、リニアトロニックのチェーンがバタつくのを抑えている樹脂製のガイドの振動が主な原因でした。そこで、このガイドをトランスミッションケースに保持させているL字型のアルミ製ロッド『チェーンガイドロッド』に着目しました。従来型はロッドの剛性が高く、チェーンガイドの振動がそのままトランスミッションケースに伝わり、音を発生させていました。そこで、ロッドの材料を変えずに形状を工夫して剛性の最適化をはかり、ロッドがたわむことでチェーンガイドの振動をうまくいなすようにしました。この結果、発生源において2dbほど音を低減することができ、EV走行時も車内の乗員にとっては気にならないレベルまで下げることができました。
低フリクション化の一例を挙げると、オイルの撹拌を抑えている『出力クラッチバッフル』というパーツの形状を見直し、オイルをかきあげてしまうことによって発生するロスを減らしました。かき上げたオイルでギヤ潤滑を図っているマニュアルトランスミッション車などと比較すると、オイルポンプで吸い上げたオイルでチェーンやプーリーなどを潤滑するリニアトロニックは、オイルのかき上げとしては必要量のみでよく、かき上げ量が多すぎると余分な抵抗となってしまいます。そこで研究実験のスタッフと協力して出力クラッチバッフルの形状を最適化、燃費向上にも貢献しました。
制御面においては、ハード面以上に大きく進化しました。SUBARUらしさが表れているのはAWD車において後輪へのトルク配分制御をブラッシュアップした“フィードバック制御”です。これは雪道のような低μ路のコーナーでリヤタイヤがグリップ限界を超えて滑り出すような走行時の制御で、従来はクルマの操舵角を検知して4輪のトルク配分を制御していましたが、新型では車体の横滑り角を用いた制御に変更しました。横滑り角というのは、車両の向きと重心の進行方向の差で、これが一定値内に収まるようにしています。これによってクルマが横方向に滑り出したとき、ドライバーがカウンターステアを当てるような場面でもドライバーの意図に沿った動きをするようにしています。
新型クロストレックのAWD車に設定したXモードも進化しました。従来は前進時のみだったモーターアシストの領域を広げ、後退時にも適用するようにしました。降雪時やキャンプ場など滑りやすい路面での後退時などでご活用いただけると思います。
もう一点、運転時の質感向上を目指し、モーターのみの走行からエンジン走行に移行する際のエンジン再始動に伴う振動を、最大限少なくするよう制御を見直しました。エンジンがかかった瞬間、回転が一瞬上がってしまうのですが、その際モーターに発電負荷を与えることでエンジンの回転数を抑制します。さらに振動を抑えるためトランスミッション側のクラッチの締結のさせ方をなめらかになるように制御をチューニングしました。どこまでも走り続けていたくなるような愉しさを皆様にお届けしたく、これらの改良を新しいe-Boxerに織り込んでいますのでぜひ体感してみて下さい。
今月の語った人
株式会社SUBARU 技術本部 パワートレイン設計部 トランスアクスル設計第二課
埼玉県朝霞市に生まれ育ち、現在も朝霞在住。朝霞のおすすめエリアは、陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」。敷居が高い感じだが、予約なしで無料で入ることができ、VR体験コーナーやフライトシミュレーター、射撃シミュレーターなど展示物も充実しており、今も時々訪れているそう。また夏に開催される朝霞市民まつり「彩夏祭」はよさこい鳴子踊りの連がたくさん出たり、花火が上がったりとにぎやかで楽しめるとのこと。プライベートでは小学校の頃からクルマ好きで、大学時代は自分で設計・製作した車両で競う学生フォーミュラに参加。現在もSUBARUの同好会に所属してインプレッサWRX STIでサーキット走行を楽しんでいるそう。また、中学時代に始めたバドミントンは現在、東京都三鷹市の代表として試合に参加している。
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