車両接近通報装置は、ハイブリッド車、電気自動車などがモーターのみで低速走行している時に、歩行者に車両が接近していることを知らせるための装備です。2018年3月以降、法規によってモーターのみで走行できる車両への搭載が義務付けられました。
現在SUBARUがe-BOXER搭載モデルに搭載している車両接近通報装置は、発進時車両が動き出した時から24km/hまで音を発生し、速度に合わせて音量・音色が変化し、速度感を表します。減速時は速度が21km/h以下になったら鳴り始めます。車両の前後左右から2m以内の場所にいる歩行者にはしっかりと音が届くようにしながら、車内には静粛性を保つために音が入り込まないように配慮しているため、e-BOXER搭載車にお乗りの方でも、この装置が発生している音をお聞きになったことがないかもしれません。
SUBARUでは、法制化される前からEVやハイブリッドモデルに車両接近通報装置を搭載していましたが、2018年の法規制で、発する音の大きさの基準値や測定方法も細かく定められたため、改めて目標値を定めて新たな車両接近通報装置を開発しました。
新型の車両接近通報装置を開発する際、発生する音づくりにSUBARUとして4つのテーマを設定しました。①EVの走行をイメージさせる音、②低音域をしっかり効かせて重量物が動いていることがイメージできる音、③音が尖って聞こえないよう幅広い周波数帯を使いふくよかな音質にすること、④音の鳴り始めと終わる時に唐突感が無いようにすること。これらのテーマに向けてボクサーサウンドやF-1マシンのエンジン音をイメージしたものなど、100種類以上の音をつくり、さまざまな人に試聴してもらって違和感、不快感が無いものに絞り込んでいき、最終的に選んだのは未来感、EVらしさに内燃機関のエンジンが持っているテンポ感をプラスしたものになりました。
SUBARUでは不快な音は排除しながら、BRZのサウンドクリエーターのように“聞かせる音”は積極的に聞かせる音づくりをしています。新しい車両接近通報音も、SUBARUらしい音に仕上がっています。
車両接近通報装置の音は耐水性のあるスピーカーから発していますが、その取付け位置には衝突安全性能を何よりも大切にしているSUBARUらしい考えがあります。
低速走行時に機能する車両接近通報装置において重要なのはバンパーをコツンとぶつけてしまうなど、走行性能に支障を及ぼさない軽微な衝突時の配慮です。車両前方の中央付近にはラジエーターが搭載されているため、そのエリアにスピーカーを配置すると、軽微な衝突の際にスピーカーがラジエーターを損傷してしまう可能性があります。また、車両の助手席側前方にはウォッシャータンクが搭載されており、スペースが確保できません。最終的に選んだのは運転席側のヘッドランプの下、フォグランプの後方です。このレイアウトは車種や仕向地に関わらず、すべてのSUBARU車で統一しています。今回開発した新型車両接近通報装置も、最初にこの搭載位置を決めてから、音づくりを始めました。
いつも時間をかけているのは、スピーカーのレイアウトです。同じスピーカー、同じ音源を使っていても、車種が違えばスピーカー周辺のパーツの形状や材質、配置の僅かな違いが音の伝わり方に影響を及ぼし、必要な場所に音を届けることができなくなってしまうからです。フロント周りのデザインが変われば、その都度音を測定し直してスピーカーのレイアウトを最適化しています。
今月の語った人
電子プラットフォーム設計部
電子プラットフォーム設計第一課
愛媛県生まれ。豊かな自然に恵まれた土地で生まれ育ち、休日は家族で海釣りに出かけた思い出がある。工業大学時代はバイクをカスタマイズして乗っていた。お気に入りのツーリングルートは広島県呉市の海沿いを走る道。走って楽しく、景色も美しいそう。
電動ユニット設計部
電動ユニット設計第二課
愛知県生まれ。お気に入りの街は名古屋の繁華街、大須。パソコンショップや古着屋があり、秋葉原と高円寺を合わせたような賑やかな街だそう。着心地が良く、リラックスできるアジア系の民族衣装が好きで、今も大須の専門店で購入している。お気に入りはサルエルパンツ。
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