先日情報公開された最新の自動車アセスメントJNCAP自動車安全性能2022において、ソルテラがトップレベルの★★★★★にレイティングされました。バッテリーとモーターを搭載した電気自動車(以下BEV)であるソルテラは「衝突安全性能」評価のすべての試験で、乗員はもちろんハーネス、モーターなどの高電圧部品もしっかりと守り切り、ランクAとなる合計得点87%の結果を得ました。今月はJNCAPで行なわれた“前面オフセット衝突試験”“側面衝突試験”において、どのように乗員を守っているのかについて、二名のエンジニアに話を聞きました。
黒田:乗員安全性能の開発においては、あらゆる衝突形態で乗員を守るために、すべては乗員目線で開発がスタートします。具体的には乗員を乗せた状態で衝突時に衝撃を吸収するためにはどのくらいのスペースが必要か? エアバッグの固さはどのくらい無ければならないか? さらに側面衝突においては特にエアバッグが展開するためのすき間がどれだけ必要か? を決めていきます。車両重量が重くなるBEVでは、衝突エネルギーが大きくなり車両の変形量が大きくなるため、車両パッケージの中でいかにして乗員の空間を確保するのか? が課題となります。
JNCAPの側面衝突試験では、車両を模した台車を時速55kmで走らせ、ドライバー席にダミーを乗せた試験車両の側面に衝突させます。その衝撃でダミーの上体は台車が衝突してきた方向に大きく傾きます。その際サイドエアバッグ、カーテンエアバッグが展開し、ダミー頭部や上半身~腰部が内装に強く押されるのを防ぎます。ガソリン車より約500kg重くなるソルテラでは衝突エネルギーを効率よく吸収するため、内装にいくつか工夫をしています。まず、乗員の腰あたりに位置するフロントドアトリムの内部に150×150mmサイズの衝撃吸収材(以下EA材)を配置しました。机を横に倒したような形状で、机の天板が乗員側にあり、そこからドア面に向けて軸方向に折れ込む構造の90mm長の四本の脚があり、ドア面からの衝撃を吸収します。さらにアームレストはデザインや人間工学の担当者と共に衝突時に乗員の肋骨部を押さないよう高さやサイズ、トリム材の硬さを最適化しました。また、フロントドア内部にあるサイドインパクトビームがBピラーと重なる部分のBピラー内部に衝撃を検知する加速度センサーを最適な位置に配置し、より短時間でエアバッグを展開させるようにしています。
鎌田:前面オフセット衝突試験では、車両を模したアルミハニカムを取り付けた壁面へ、運転席とリヤ席にダミーを乗せた試験車両を時速64㎞で走らせ、運転席側40%に衝突させます。フルラップ衝突試験と比較すると、左右に配置したサイドメンバーフレームの片側のEA材しか使えないため、変形量は大きくなります。このような衝突形態でも、衝突エネルギーを複数のフレームに分散して吸収する“マルチロードパス”という骨格構造で乗員の空間を確保します。ボディ重量が増したソルテラは、より大きな荷重を受け止めるためにサイドメンバーフレームの下にセカンドロードパスを追加しました。衝突のストロークがさらに進むと、フロントフェンダー内にあるEA材アッパーメンバーが荷重を吸収しながらAピラーに流します。また、重量増と大型化を避けるため、ソルテラのフレームには、軽くて強度の強い材料を全体の40%に採用しました。こうしたフレームでの取り組みに加え、荷重を受けると奥に動き、乗員の頭部・胸部への衝撃を緩和させる衝撃吸収ステアリングや、運転席・助手席のインパネ下部には脚部を支えるニーブラケットを採用しています。
開発においてはコンピューターによる解析を使って効率化を図りながらも、シミュレーションではフォローしきれない部分を漏らさないために、最終的には現物を使って評価、確認をしています。実車がぶつかったときにしっかりと人を守ることが、私たちの目標だからです。
今月の語った人
トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab
(株式会社SUBARU技術本部より出向中)
埼玉県狭山市生まれ。茶畑を眺めて育つ。小学校で空手を始め中学以降は柔道に進む。段位は2段、得意技は背負い投げ。好きな選手は投げ技が豪快で美しい阿部一二三選手。スノーボードも好きで、それほど混雑しておらず、雪質の良い尾瀬戸倉に毎年出かけている。ふるさと自慢は渋味と苦味のバランスが絶妙な狭山茶。
トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab
(株式会社SUBARU技術本部より出向中)
熊本県八代市出身。中学時代に始めたバドミントンは、社会人になっても地域のサークル活動で楽しんでいる。老若男女幅広く参加でき、真剣に勝負できるところが魅力だそう。地元のおすすめドライブルートは天草エリア。海沿いを走る景観も素晴らしく、沿道には車えびや地鶏天草大王などの地元特産のグルメも充実。
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