SUBARU×SAJスペシャルインタビュー 激動のシーズンを送る、SNOW JAPAN戦士の現在地 #2 伊藤 有希選手(ジャンプ) <スバル×スポーツ>

コロナ環境で何ができるか。対応力が試されている。

2020-2021シーズンも中盤戦を迎えたスキージャンプ・ワールドカップ。女子のエースの一人、伊藤有希選手は終息からは程遠いコロナ禍のヨーロッパで試行錯誤を重ねています。「課題は対応力」、そう語る彼女の心の戦いと、コロナの先にある大いなる目標を聞きました。

profile 伊藤 有希 Ito Yuki
1994年 北海道生まれ。土屋ホーム所属。2014年ソチオリンピック、2018年平昌オリンピック日本代表。16-17年シーズンに才能を大きく開花させ、ワールドカップ第7戦の札幌大会で初優勝。さらにその後も勝利を重ねて個人総合2位を達成する。来たる北京オリンピックでの活躍が期待される、日本女子ジャンプ陣のエースの一人。
伊藤 有希選手 <スバル×スポーツ>

歓声がない中、どれだけ自分を奮い立たせられるか。

伊藤 有希選手 <スバル×スポーツ>

-ワールドカップも佳境ですが、ここまでの戦いを振り返っていかがですか。

ジャンプの状態や身体的なコンディションは去年よりも良いように感じています。が、戦績は個人的にはもうひと頑張りと言ったところでしょうか。毎試合毎試合いろんな思わぬ出来事に見舞われ、失格になったり予選落ちしたりがあって。実は今季は「対応力」を課題に挙げていて、前半に経験したそうした失敗を後半戦、さらに来年以降の強さにつなげていきたいと思っています。

伊藤 有希選手 <スバル×スポーツ>

-思わぬ出来事といえば、コロナの蔓延もそうですよね。

まさに対応力が問われていると思います。ヨーロッパに来ると空港には人気がなく、ロックダウンで町中のレストランが閉まっていて、まるで自分が映画の中に入ったような気分でした。ワールドカップ自体も、欧州入りしてから試合が突然組まれたりキャンセルや延期になったりしています。そういう不安定な事態にしっかり対応するメンタリティが必要ですね。そういえば、札幌と山形の大会も中止になってしまいました。大会関係者の方々の大変さや無念さを思うと私もすごく悔しいし、その分ヨーロッパで頑張って、良いニュースを届けられたらと思います。

-大会中もやはり感染症対策が徹底されているのでしょうか。

そこはかなり抜かりないと思います。大会前にはPCR検査をするし、大会後も、次の国に移動するために改めて検査することも。また競技中は飛ぶ寸前までマスクを着用し、控室ではもちろんソーシャルディスタンス。隅々までコロナ対策が行き届いている印象です。試合会場の雰囲気もかなり違っていて、全試合が無観客。スタートゲートに座った時、いつもは下からの観声が励みになるのですが今シーズンはそれがないので、どれだけ自らを奮い立たせられるか、そんな戦いでもあります。

-やはり心身ともにかなり負荷のかかる状況なんですね。

もちろん何かと制限は付きまといます。が、それを「苦労だな」「やりづらいな」と考えてしまうと自分にとってこの状況がマイナスに働くばかりなので、コロナ禍でも何ができるのかを考えながら過ごしています。ジムが開いてなくても、選手同士で肩車しながらスクワットしたりとか。なんでも工夫次第ですよね。コロナの影響で夏は海外で戦えず、合宿もほぼなく、自宅時間が圧倒的に長くなりました。でもその分、自分と向き合い、見つめ直す機会が持てた。これまで時間が割けなかった基礎トレーニングに集中的に取り組むことも。見方によっては、贅沢に時間を使えたなとも感じています。

いつまでも飽きない車窓。移動時間も楽しみのひとつ。

伊藤 有希選手 <スバル×スポーツ>

-プラス思考の伊藤選手ですが、ヨーロッパでの車移動はいかがですか?過酷だという話です。

実は私、移動が辛いと思ったことがないんです。飛行機よりも車の方が断然好き。立派な山が次々と現れ、大小の綺麗な川を渡り、国境をまたぐと街の雰囲気まで一変する。窓を眺めていると飽きないんですよね。私は北海道の下川町という、冬には気温がマイナス30度になるような極寒の地で育ったのですが、その町の風景とフィンランドが似ているんです。木々の白く凍る様子とか、すごく寒い日の太陽の輝きとか、空気の冷たいフィーリングとか。北欧3か国が開催地の時は、ちょっと地元を感じるのでテンションが上がります(笑)。

-冬のヨーロッパは雪道続きですよね。道のりは険しくないですか。

場所によってはかなり険しいと思います。ジャンプ競技の開催地は標高の高い場所ばかりなので、時には冬の山道を登ってゆくことになります。だからだと思うんですが、SUBARUさんにはどこか「雪に強い」というイメージがありますね。私たちSNOW JAPANのサポートを長年していただいているので。雪道の安心ってかなり車次第なところがあると思っています。

-ありがとうございます。普段はご自身で運転されることも?

地元で練習している時は、ほぼ毎日。ジャンプ用のスキー板ってすごく長くて、女子でも2.3mくらいあるので車は欠かせません。運転席ではハンドルに集中するわけですが、結果としてジャンプのことを忘れられ、ちょっとした気分転換になっています。常に競技に対してオンの状態では疲れてしまうので。

伊藤 有希選手 <スバル×スポーツ>

-いいリラックスになってるのですね。最後にこれからの目標をぜひお聞かせください。

ドイツでの世界選手権を今季最大の目標としてやってきたので、そこでメダルを取って皆さんに笑顔になってもらいたいです。私が一番幸せを感じるのは、自分のジャンプでファンの皆さんやスポンサーの方々の笑顔が見られた時。競技をしていて一番充実する瞬間です。初めてワールドカップで優勝したのが札幌大会だったのですが、地元の皆さんの歓喜される姿を間近で見て、「こんなに喜んでもらえるんだ」とつくづく思いました。今季は五輪のプレシーズンでもあります。これからの最大の目標はオリンピックでメダルを取ること。すると、日本中の方々をきっと笑顔にできるので。全力で向かっていければと考えています。

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