Vol.03遊びを通して
交通安全の大切さ、
乗り物の愉しさを伝えるバス
17E型ボディ葛飾区立新宿交通公園
18E型ボディ京王れーるランド
富士重工業株式会社(現・SUBARU)はバスのボディも製造していました。
Vol.01で訪ねた「レールバス」のように、電車にバスのボディが使われることも多かったのですが、
当然ながら街中を走るバスにも富士重工業製のボディを使用したものがありました。
当時の富士重工業株式会社がバス製造を終了してから約20年。
現役で走っている車両は少なくなっていますが、引退後、移動手段としてではなく、
新たな役目を担っている車両が都内にあると聞き、2つの車両を訪ねました。
17E型ボディ
葛飾区立新宿交通公園
18E型ボディ
京王れーるランド
遊んで学ぶ、交通公園
まず向かったのは葛飾区にある「葛飾区立新宿交通公園」。
「交通公園」とは、遊びながら正しい交通ルールとマナーが身につくように、園内に車道、横断歩道、信号機などが再現された特殊な児童公園のこと。1960年代~70年代に全国各地に設置されました。当時は、自動車の普及とともに、「第一次交通戦争」とも言われるほどに、交通事故による死亡者が急増していた時期で、交通ルールやマナーを広く一般に広める必要があったのです。現在は東京都内だけでも20ヶ所以上、全国で200ヶ所以上設置されています。葛飾区立新宿交通公園は1969年に設置され、入園者は年間約10万人。幼稚園・保育園の遠足にも利用されています。
公園に入ると、まずは小さな踏切と駅がお出迎え。土日祝日には限定で公園を1周するミニSLに乗ることができるので、たくさんの親子が訪れるのだとか。踏切を越えると交差点や歩道橋など街中と変わらない風景が広がります。
ただ、どれも実際のサイズよりも小さく作られているため、ミニチュアサイズの街にやってきたような気分になります。
遊具としての新たな役目
富士重工業製の17E型ボディを使用したバスは公園の中央に鎮座しています。交通公園特有の道路や信号も相まって、まるで街中にいるような気持ちになりますが、よく見ると隣は大きな砂場。前後のドアは常に開け放たれ、運転席や座席には自由に座ることができるため、子どもたちが自由にバスに乗り降りしています。見た目はそのままですが、すっかり遊具の様相を呈していました。
車両をよく見ると、日に焼けていたり、所々の塗装が剥がれていたりと、時間の流れを感じます。それもそのはず。この車両は平成18年4月に設置されたため、すでに16年が経過しているのです。この車両を見ることができるのも、もしかしたらあと数年なのかもしれません。
バスを見ていると、小学校低学年くらいの男の子が運転席に座り、めいっぱい両手を伸ばして大きなハンドルを操縦していました。普段乗っているバスのルートを辿っているのか、それとも想像の世界を走り回っているのか。人を乗せて街を走ることはできなくなっても、子どもたちの頭の中ではまだまだ現役のようです。
移動手段から遊具へと姿を変え、子どもたちに「交通安全」と「乗り物の愉しさ」を伝える車両に出会うことができました。
次なるバスを訪ね、京王れーるランドへ
続いて訪れたのは東京都日野市にある「京王れーるランド」。
京王の電車・バス開業100周年記念として2013年10月にリニューアルオープンしました。本館、屋外展示場、アネックスの3つのエリアがあり、本物のバス・電車や設備の展示、体験が豊富にあるのが特徴です。電車の運転体験、車掌体験(ドアの開け閉め)など多くの体験展示を通して、電車・バスに親しみをもってもらうことを目的としています。今回訪ねるバス以外にも京王線、井の頭線で活躍していた電車も展示されています。
入場ゲートとして設置されている改札機を抜けると、さっそく富士重工業製の18E型ボディが出迎えてくれます。製造から20年以上、京王れーるランドの開業時から展示されてもうすぐ10年ですが、屋内展示なので車両の外も中もピカピカで、大切に維持されていることがわかります。
車両の現在を知るため、京王れーるランド 主任の秋田賢一郎さんにお話をお伺いしました。
「入場すると最初にこのバスが目に入るので、『おおっ』と驚いてくれるお客様も多いです。バスは日常生活で目にしているものですが、間近で見ると大きく感じますし、じっくり見る機会も少ないので皆さん興味を示してくれます。」
この展示でも、やっぱり運転席に座る体験が大人気!土日は順番待ちの列ができるほどで、子どもだけでなく一緒に訪れたお父さん、お母さんも自家用車とは違う大きなハンドルや運転席から見える景色に驚いてくれるそうです。
また、車体後方のエンジンルームがスケルトンになっているのもポイント。普段見ることができない場所なので、乗り物好きの方にも好評なんだとか。
「なにより人気なのは降車ボタンですね。普段は降りる時しか押せないボタンを何度も押せるのが子どもたちにはたまらないようです。押されすぎて壊れてしまうこともあるくらい…。お年寄り車両ですから、部品の予備がなくて修理ができない所もあるんですよ」と秋田さんは少し困り気味に笑っていました。
この地域はバス路線が多く、京王線の駅からバス路線がいくつも出ています。
郊外のため、駅と自宅が離れており、駅まで向かう手段としてバスを使う人が多いのだそう。
「都心に比べて、バスが生活に密着していると思います。なので、特にこの地域の子どもたちにとって、バスはとても身近な乗り物なのだと思います」と秋田さん。
「このバスはまさに私の地元を走っていたもので、日常的に目にしていました。なので、ここに配属されて初めて見た時、『あれ、このバス見たことある!』と思いました。まさかここでまた出会えるとは思わなかったです。」
バスと人が密着したこの地で富士重工業製の車両も生活を支えていたと知り、18E型の現役時代の姿を思い浮かべながら、とても嬉しい気持ちになりました。
本物に触れることを通して伝えられること
施設には今でもたくさんの人が訪れていますが、バスの展示は開業当初から人気があり、来場者からも様々な反応があったそうです。開業に携わった京王電鉄の依田 隆裕さんからは、こんな話を聞きました。
「運転席や車内のミラーの数に驚いていたお客様が多かったです。『運転手の死角になる所もあるので実際に走行しているバスの近くを通る時は注意してくださいね』とスタッフが親子連れのお客様にご案内していたのを覚えています。」
移動手段としての役目を終えた車両ですが、それぞれが所縁のある場所で展示されることで、本物を間近で見て、触れる体験を通して乗り物の面白さ、交通ルールの大切さを伝えることができるのです。
走ることをやめた車両だからできることがあると、2つのバスが教えてくれました。
製造から20年以上経った2つの富士重工業製は、それぞれの場所で子どもたちに大切なことを伝える存在として活躍しています。
葛飾区立新宿交通公園Katsushika ward Niijuku traffic park
昭和44年7月、児童に交通知識及び交通道徳を体得させることを目的とし、設置されました。園内では、自転車やゴーカート等の乗り物を通じて楽しく遊びながら正しい交通ルールとマナーが身につくよう、歩車道、横断歩道、信号機、各種道路標識を設置するとともに、バスや消防車といった乗り物も展示しています。
開園時間:9:00~17:00
(ミニSLは土日祝のみ、10:00~12:00・13:00~16:00)
休園日:年末年始(12月29日から1月3日)
葛飾区立新宿交通公園の施設案内へ
京王れーるランドKeio rail land
2013年10月10日に京王の電車・バス開業100周年記念施策としてリニューアルオープンしました。
ファミリーを中心に、電車やバスに親しみを持ってもらい、楽しんでもらえる施設をコンセプトに運営しています。本館と屋外展示場、アネックスの3つのエリアがあり、本館には実際に使用していた運転台で体験ができるシミュレーターやHOゲージを操作できるジオラマコーナー(有料)、子どもに人気のアスれーるチック(ボールプール)などがあります。屋外展示場には京王線・井の頭線で活躍した車両が5両展示されているほか、ミニ電車(1回100円)も運転中。アネックスには、現在も活躍中の京王線7000系と8000系のカットモデルを展示しています。
東京都日野市程久保3-36-39
営業時間:9:30~17:30(最終入館17:00) ミュージアムショップのみ9:30~17:15
休館日:水曜日(祝日の場合は翌木曜日休館)、1月1日
入館料:310円(3歳以上)
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