Gears of SUBARU

クルマを動かすギヤ一つ一つに光を当てるように、
SUBARUとSUBARUのクルマを形成する様々な活動や人を
ピックアップしお伝えしていきます。

VOL.01 SUBARUの技術と
歴史を遺し、伝承する
SUBARUテクノ株式会社

SUBARUは、その技術を後世に遺すために、過去のSUBARU車をレストアし、メンテナンスをし続けながら保管しています。それが、WEBサイト「SUBARUオンラインミュージアム」でも公開中の技術資料車。今回は、この活動に当初から関わっていたSUBARUのOBである木暮 敏道さんと、現在、この活動を担っているSUBARUテクノ株式会社の山田 晃一さんに、この活動の目的、そこにかける思い、そして古い車に長く乗り続けるためのコツなどを、お話しいただきます。

木暮 敏道
木暮 敏道
(きぐれ としみち)

1965年に富士重工業株式会社(現・株式会社SUBARU)入社後、2002年まで、車両研究実験部門のエンジニアとしてSUBARUの車両開発に携わる。2002年、富士テクノサービス株式会社(現・SUBARUテクノ株式会社)に移籍し、技術資料車のレストア・維持管理の業務に2014年まで携わる。

山田 晃一
山田 晃一
(やまだ こういち)

1981年に富士重工業株式会社(現・株式会社SUBARU)に入社。2010年 まで車両研究実験部門のエンジニアとして、SUBARUの車両開発に携わる。2010年、富士テクノサービス株式会社(現・SUBARUテクノ株式会社)に移籍し、車両研究実験に携わる。技術資料車のレストア・維持管理業務は2014年から担当。

温故知新の源。歴史を新しい発想の力とするために

「技術資料車」とは何ですか?

現在、SUBARUでは、(戦後の)富士産業時代に製造したラビットスクーターから、スバル360、スバル1000、レガシィなど、160台ほどの車両を「技術資料車」として保管している。SUBARUは、クルマを単なる移動手段ではなく、人の想いを受け止め、それに応える「人生を豊かにするパートナー」であると考えており、企業の社会的責任(CSR)の取り組みにおける重点領域の一つとして「人を中心とした自動車文化」を定め、人が主役となる自動車文化の発展と普及を目指している。こうした背景のもと、SUBARUがこれまで作り上げてきたクルマに込められているメッセージや技術、そしてDNAを後世に受け継いでいくことを目的に、その多くを「動体保存」、つまり実際にエンジンをかけて走れる状態で維持することを目標としている。

「この資料車を通して遺していきたいのは、SUBARUがこれまで生産してきた製品の記録。そして、もう一つは、SUBARUの過去の技術の記録です。そのため、中には、「すばる1500(P-1)」など、実際に販売には至らなかったものも含まれています。」(木暮)

スバル技術資料館にいるSUBARUテクノスタッフ

2002年、当時の富士重工業(現・SUBARU)と当時の富士テクノサービス(現・SUBARUテクノ)は、それまでのSUBARUが生産した車両を保存する活動を始めた。
「私が富士重工業から富士テクノサービス(現・SUBARUテクノ)に移籍したのは、その頃です。ちょうど、SUBARUは設立50周年を迎える時期でもあり、実際に触れられる形で歴史、技術を遺していこうという思いでこの活動が始まったんです。」(木暮)

SUBARUテクノOBの木暮敏道

「その頃で、スバル360発売から45年程経っているので、1950年代、1960年代のクルマは徐々に入手しにくくなりはじめる時期ですよね。そういう意味でも、そのタイミングで始めることができて本当によかったと思います。2000年代初頭というと、新しい技術を次々に開発して、どんどん販売拡大していこうと、とにかくがむしゃらに、みんなで前を向いて走っている時代。そんな中で、これまでに作ってきたクルマを整理して、過去の技術や、その背景にある哲学・思想をみんなで共有していかなきゃいけないという流れがあったのでしょうね。」(山田)

SUBARUテクノの山田晃一

「現在、私は、この技術資料車を活用したSUBARU社内の歴史講座も担当しています。新しいクルマの開発チームが立ち上がる時にも、技術資料車を題材に、プロジェクトチームのメンバーを対象に開発のヒントになるような歴史講座を開くこともあります。
技術資料車の保存が始まるまでは、過去のクルマのことは、文書や写真を通して知ることしかできませんでした。しかし、技術資料車の保存が始まってからは、実際に乗ってみたり、運転してみたりすることができるようになりました。実物で様々なことを確認することができますし、『何故、ここをこうしたんだろう』と実物に触れながら、みんなで話し合うことで、視野や知見が広がります。それを通して、SUBARUが変わることなく大事にしてきた哲学・思想を体感することができるのは大きな価値だと思います。」(山田)

スバル技術資料車を見るSUBARUテクノスタッフ

実際に触れることのできる形で歴史を遺す

どのようにしてクルマを集めたのですか?

「2002年以前も、STIが一部のクルマの収集とレストアを行っていたので、そのコレクションをベースに、SUBARUの歴史年表の中で欠けている車種から集め始めました。修理店、ディーラー、OB、旧車マニアなど、本当にあらゆるネットワークを駆使してね。オーナーさんのところに何度も足を運んで譲っていただけないか交渉したり、OBや関係者の方が寄贈してくださったり、ぼろぼろの車両を入手して修復したり、色々なケースがあります。」(木暮)

ラビットスクーターS-1の修復前と修復後

修復する中でどんなところが大変ですか?

「古くなればなるほど、部品が無いので、部品の入手は大変ですね。同じモデルの他の車両があればそこから取ることもできますが、入手困難なものは自作することもあります。例えば、「すばる1500(P-1)」という、SUBARUがスバル360を発売する以前に開発をしていたクルマがあるのですが、そのクルマのデフの一部が欠けて、動かなくなってしまったことがあります。しかし、このクルマは実際に市販されなかったクルマですし、部品はまず入手できません。そこで、そうした部品の試作を得意とする業者さんに協力をお願いして作ってもらいました。他にも時間と共に劣化するゴムパーツなどは自作するケースもあります。」(木暮)

スバル技術資料車のレストア現場

「古いクルマは外装を塗装し直したものも多いのですが、サビたり、色褪せたりしているので、元がどんな色だったかを探るのは、まるで発掘作業のようです。車体内側の褪せにくい部分に残っている色から推定したり、上塗りを剥がしていくことで、当時の塗装色を確認したりしながら元の色に戻していきます。スバル360の増加試作型も、そうした1台でした。入手した時はベージュだったのですが、塗装の表面を剥がしていったら、実はもともとはブルーのボディカラーだったことがわかりました。おそらく以前のオーナーさんがベージュのスバル360に乗りたくて塗装されたんでしょうね。」(山田)

スバル360増加試作型とSUBARUテクノスタッフ

維持管理をどのようにされているのでしょうか?

「動く状態を維持するというのは、実際には大変なことです。クルマにお乗りの方ならお分かりかと思いますが、クルマってあまり動かさないと調子が悪くなりますよね。ですので、最低でも2ヶ月に1回はメンテナンスをして、走らせています。本当はもっと動かしてあげたいのですが、何しろ、全部で100台以上のクルマを維持していかなくてはならないので、そこは時間とのせめぎあいです。」(山田)

スバル技術資料車の点検をするSUBARUテクノスタッフ

活動を始めて20年ほど経過し、SUBARUの技術史年表を埋める車種がほぼ集まりつつあるが、今現在も修復を待っているクルマ、これからさらに集めていきたい車両もある。
「これまでは、フルモデルチェンジ後のクルマをメインに集めてきたのですが、SUBARUの場合、モデルライフの間でエポックとなるような技術が追加されることが多いので、そういう視点ではまだまだ欠けているクルマがあると考えています。」(山田)

SUBARUテクノの山田晃一

クルマは単なる機械ではなく、お客様のパートナーである

この仕事のやりがいは?

「これはもう復元できないのではないかと思うクルマもありましたし、修復に年単位の時間がかかったクルマもあります。そんなクルマが仕上がって、発売時の走りに近い状態で走っているのを見ると、何とも言えない達成感がありますね。そして、そのクルマが完成するまでに協力いただいた様々な方々の顔が思い浮かんで、感謝の思いでいっぱいになります。」(木暮)

「近年は様々なイベントに復元したクルマを出展することも増えてきました。展示現場に立ち会うと、見に来て下さった方が、まるで古い友人か我が子に再会したような反応をされる瞬間を見かけることがあります。その時、特に、クルマというものが、お客様の生活と深いところで関わっていて、ただの機械や道具を超えた存在に成り得るんだということを改めて実感します。『このクルマに再会できてよかった』と愛おしげにクルマに触れたり、中には涙を流されたりする方もいらして、そんな様子を拝見していると、どんな苦労も報われる思いです。」(山田)

SUBARUテクノスタッフとスバル技術資料車

技術資料車の中で、SUBARUの安全へのこだわりを感じるものはありますか?

「SUBARU初の市販車スバル360の視界の良さに、最初からSUBARU安全思想のベースは視界にあったのだなということを感じますね。スバル360には軽く作るという大きな目標がありました。そんな中で、視界を良くするためにウインドゥを大きくしてしまうと、ガラスは鉄板に比べると重い素材なので、車両が重たくなってしまいます。それでどうしたかというと、フロントウインドゥをドライバーに近く設置することで、小さいガラス面積でも広い視界を確保しているんです。視界を良くするために、工夫を凝らすという姿勢がこの頃からあったというのが、本当にすごいなと感じます。」(山田)

「私は乗用四駆をいち早く開発し、それを小型車にとどまらず、軽自動車やトラックにも採用していったところにSUBARUの安全へのこだわりを感じます。当時のフラッグシップであったレガシィを、途中から全てAWDモデルにしたところにも、その姿勢があらわれていたと思います。やはり私自身も自分のクルマにはAWDを選びますし、AWDの方が圧倒的に安心を感じます。」(木暮)

360 CAMERA VIEW (スバル360増加試作型)

古いクルマに長く乗り続けるコツと醍醐味とは?

「クルマと会話するという意識で接していただけると良いと思います。振動、音、匂いなど、何かいつもと違うところがないか五感を研ぎ澄ませていると、段々に調子の悪いところが感じられるようになります。特にエンジンにキャブレターが採用されている時代のクルマは、後のインジェクションが採用されたクルマのセンサーがセンシングして燃料噴射などにフィードバックしている情報を、ドライバー自身が感じ取りフィードバックしてあげる必要があります。そういうクルマとの会話が古いクルマに乗る醍醐味でもあります。『今日はご機嫌がいいな』とか、『今日はちょっとご機嫌ナナメだな』とか、クルマってただの機械ですけど、すごく人間くさいなと思います。そういうところも愉しんでいただけると良いのではと思います。」(山田)

SUBARUテクノOBの木暮敏道とSUBARUテクノの山田晃一

古いクルマと上手にお付き合いするコツ

  • 新車購入時から10年10万km走行を超えたら、油脂類とゴム部品の交換は推奨頻度に合わせてこまめに。オイル漏れは、漏れたオイルが周辺部品の劣化を進める可能性があります。
  • 1週間に一度はエンジンを掛ける。エンジンを掛けたら、きちんと温まるまで動かす。
  • 走行の際は、きちんと暖気をしてから走り出すこと。急アクセル、急ブレーキなど、急のつく操作は避けること。
  • 古いクルマには水分は大敵。水をかけるような洗車はできれば避け、濡れたら、布などで拭き取ること。(年代が新しくなるほど、防錆性能は向上しています。)
  • 泥や融雪剤がつくような場所を走行したら、下回りの洗車を念入りに。洗車後は水分を拭き取るなどしてしっかりと乾かす。
【動画】印象に残っている5台のSUBARU車

SUBARUテクノ株式会社

株式会社SUBARUの出資で設立されたエンジニアリング会社。スバルの自動車、航空機などのデザイン、設計、研究実験、生産技術をはじめとする技術開発業務を請け負ったり、エンジニアを派遣したりすることで、SUBARUの製品開発を支えている会社です。2017年、富士テクノサービス株式会社から、現在のSUBARUテクノ株式会社に社名変更しました。

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