メーカーを知る

SUBARUの安全への真摯な想いが詰め込まれた

クロストレックのパッセンジャーシートベルトリマインダー(PSBR)

メーカーを知る | 2025/04

カートピア cocosuba | SUBARU
カートピア ココスバポインターでオーバーヘッドコンソールの中央部にあるシートベルト警告灯を指し示す小野寺さん | SUBARU
クロストレックの天井中央部にあるオーバーヘッドコンソールには、助手席と後席左側、後席中央、後席右側のシートベルト警告灯があり、シートベルトが未着用の場合赤いインジケーターが点灯します。シートベルト未着用のまま約20㎞/h以上で走行すると警告灯が点滅し、警告音が鳴ります。このとき車速が20㎞/h以下になっても、警告灯の点滅と警告音は継続し、乗員にシートベルトの着用を促します。

日米のアセスメントで、最高評価を獲得したのはSUBARU車だけ!


クロストレックがファイブスター大賞を受賞した「自動車安全性能2023(JNCAP)」では、"座席ベルトの非着用時警報装置(Passenger Seat Belt Reminder/以下PSBR)評価"という評価項目があります。この項目で、満点の100%の得点率を得たのは、試験を受けた16車種の中でクロストレックのみでした。また、これに先駆けて2022年に米国IIHS(Insurance Institute for Highway Safety:道路安全保険協会)が実施した米国の自動車アセスメントでは、新たに設けられた"シートベルトリマインダー評価プログラム"において評価を受けた26車種のうち、SUBARUのアセントとフォレスター2車種だけが最高評価の"Good"を獲得できたのです。日本と米国の第三者機関による評価において、SUBARU車と他のメーカーが造ったクルマとの間でこのような顕著な違いが生まれた背景には、法規や第三者評価だけでなく、リアルワールドで発生する事故において "乗員の命を守る"というSUBARUの真摯なクルマづくりへの取り組みがありました。

リアルワールドでの使用状況を踏まえて独自に設定した目標値


私はSUBARUに入社以来、衝突安全開発業務に携わってきました。これまで歩行者保護性能や、シートベルトの開発を経て現在のPSBR開発に関わることになりました。その際、これまでの開発と最も違っていたのは、目標の決め方です。目標値はリアルワールドでお客様がどのようにクルマを使っているのかをよく見極めて、自分たちで独自に設定する必要がありました。そのためにはお客様のさまざまな"使い方事例"や"使い勝手"を考える想像力が必要でした。

PSBRのアルゴリズムを作る際に私たちが特に注目したのはクルマの"走り始め"、"休憩時"、"乗降時"の3つのケースです。リアルワールドでは、後席に家族を乗せて送り迎えに使用するときや、暑い夏や極寒の冬に駐車場にクルマを駐めてシートベルトを外して休憩するケースなど、通常の運転状況とは異なるさまざまな状況が想定されます。それらのケースで、不必要にアラームが鳴ることが無いか?また、必要なときに鳴らないことは無いか?を徹底的に考えていきました。

カートピア 身振りを交えながらパッセンジャーシートベルトリマインダーの説明をする小野寺さん | SUBARU

他社に先駆けて後席着座センサーを導入した理由


他のメーカーが造ったPSBRは、後席乗員の有無とシートベルトの着脱をドアとシートベルトのセンサーからの情報で判断します。イグニッションをONにしてから、リヤドアの開閉があれば、PSBRは警告表示を点灯し、シートベルトが装着されると消灯します。その後クルマの走行中にシートバックルが外される(JNCAP評価"チェンジオブステータス"項目)と警告表示が点滅し、警告音を鳴らして乗員にシートベルトの着用を促します。

ところが、リアルワールドでの使用状況をよく観察していると、子どもの保育園、幼稚園への送り迎えや雨天時、駅に家族を迎えに行くときなど、後席に乗った人がベルトを着用する前にクルマが走り出すというケースをよく目にします。その際、従来の検知手法だと後席の人がシートベルトをしなくても警告音は鳴らず、警告表示もしばらく点灯した後で消えてしまいます。本来はそういうときにこそ警告音を鳴らし、警告表示も点滅させてシートベルトの着用を促さなければPSBRの役割を果たすことができません。そこでSUBARUではシートベルトセンサーからの情報にプラスして、シート座面に着座センサーを搭載し、より確実にPSBRを作動させるシステムを導入したのです。

また、警告表示の位置もドライバーのみが確認できるメーターパネル内にレイアウトされるのが一般的ですが、SUBARUでは後席も含めてすべての乗員が確認できるように配慮しており、クロストレックでは車内で最も目立つルーフセンターの位置に専用モニターを設置しました。

カートピア リヤ席の座面に手を当てて、着座センサーの搭載位置を指し示す小野寺さん | SUBARU
クロストレックの座面には、乗員が着席する位置(写真の手のひらを置いたエリア)に着座センサーを搭載しています。シートベルト警報はドアの開閉とシートベルトの着脱の有無に加え、この着座センサーからの情報を元に発信します。

PSBRの煩わしさは、お客様に安全への思いが伝わった証


PSBRの開発に携わっていて葛藤を覚えるのは、警告表示や警告音がお客様に"煩わしい"という思いを与えてしまうのではないか?ということです。それは、乗員の快適性を追求する開発姿勢と相反するからです。結論としては、PSBRに限ってはお客様にシートベルトの装着忘れを気付いていただく(装着を促す)ために、ある程度の煩わしさが必要であると考えています。もっと踏み込んで言えば"このクルマはPSBRがうるさいね"と感じていただくことは、私たちの安全への思いがお客様に伝わったひとつの証であると思っています。

たとえば、米国の場合は州ごとに交通法規が異なり、後席乗員のシートベルト着用が法律で義務付けられていないところもあるのですが、販売しているすべてのSUBARU車に同じPSBRを搭載しています。その背景には、北米エリアにおいては"安全のSUBARU"という認知が広く浸透しており、"PSBRがうるさいのは安全を重視しているからだ"と、お客様にご納得いただけているという背景があります。

そのようなお客様の信頼に応えるためには誤警報を避けなければなりません。システムとしては乗員が着座したことを確実に判断した上でシートベルトの装着を忘れている場合にのみ視覚と聴覚の警報を発信し、警告音作動時にはオーディオなどの音響を小さくすることでお客様が必ず気付けるような仕組みを目指しています。一方で、荷物を載せたときなどに誤警報を発信しないよう日々開発に努めています。将来は不安全なシートベルトの装着状態なども検知して、より確かな安全をお届けできるよう更なる開発を進めています。

メーターパネル内のタコメーターの内側に表示された運転席シートベルト警告灯 | SUBARU
運転席のシートベルト警告灯はメーターパネル内にあります。プッシュエンジンスイッチがONの状態でシートベルト未着用の場合警告灯が点灯し、シートベルトを着用すると消灯します。シートベルトを着用せずに走行する、または走行中にシートベルトを外すと警告灯が点滅または点灯し、警告音が鳴ります。

“死亡交通事故ゼロ”の目標は、お客様のご理解の上に実現する


日本における後席乗員のシートベルト装着率は、高速道路では約7割まで高まってきましたが、一般道路においては約4割と依然として低いという調査報告があります*1。その背景には、ドライバーがシートベルトの効果・必要性を理解していても、後席にゲストを乗せたときなど、シートベルトの着用を促したくても言いづらいというケースがあるのではないでしょうか。そのような状況では万が一の事故の際もドライバーは思い切りブレーキを踏むことができません。PSBRはドライバーに替わって助手席・後席乗員にシートベルトの着用を促します。米国IIHSの調査によれば、より気付きやすく、かつ持続するPSBRを用いることでシートベルトの装着が習慣化されていない人の装着率は最大で34%増加できる*2とされています。また、SUBARUが初代レヴォーグに警告音付きのPSBRを初めて採用した際に実施したユーザーアンケートでは、後席シートベルト装着率は、警告表示のみでは25%であったのに対し警告音付では70%に高まったという結果が得られました。

私たちは"2030年までに死亡交通事故ゼロ" *3を目指しており、万が一の衝突事故の際に乗員の命を守るために、ボディ構造や、シート構造、エアバッグや内装まで、さまざまな工夫を凝らして開発しています。ただし、そうした取り組みもお客様にシートベルトを正しく装着していただかなければ、まったく意味のないものになってしまうのです。PSBRも従来は"走行中にシートベルトを外すことを防ぐ"というスタンスで開発してきましたが、これは大分浸透して皆さんに届きましたので、いまは一歩進んで"シートベルトを装着してから走行する"ことを前提に開発しています。

日本でもSUBARUを選ばれているお客様は、クルマの安全に対するリテラシーの高い方が多いので、日常の使用においてPSBRが警報を発するケースはないかもしれません。ただ、SUBARUに乗るのが初めてという方がシートベルトを着用せずに後席に乗車すると、他車とは異なる警告表示や警告音にびっくりされるかもしれません。それをキッカケにしてシートベルト着用の重要性をご理解いただき、“命を守るためには必要なことなんだ”とご納得いただいた上で正しくシートベルトを着用していただけたら嬉しいです。

*1:出典 警察庁/日本自動車連盟(JAF)調査2024年
シートベルト着用状況全国調査(2024)

*2:出典 Insurance Institute for Highway Safety(道路安全保険協会)調査2022年
Many SUVs struggle in first IIHS seat belt reminder evaluations

*3:SUBARU車乗車中の死亡事故およびSUBARU車との衝突による歩行者・自転車などの死亡事故ゼロを目指す。

今月の語った人

カートピア 小野寺晃宏さんポートレート | SUBARU
小野寺 晃宏(おのでら あきひろ)

株式会社SUBARU 技術本部
車両安全開発部 衝突安全第三課

宮城県石巻市生まれ。スポーツ好きで子どもの頃から庭に設けたゴールボードを使ってバスケットボールを愉しむ。冬季は父親が運転するクルマで雪山に連れて行ってもらい、友人とスノーボードをやっていた。社会人になってからはダーツに熱中。会社以外の幅広い分野・年齢層の人たちと気軽にコミュニケーションできる機会が増え、視野を広げることができたという。また、ジグソーパズルも父親の影響で始めた。今までに手掛けた作品の中で一番思い出に残っているのはクリスチャン・ラッセンの"フォーエバーラブ"という、作品を左右反転して両面に印刷した2016個のベリースモールピースを使ったパズル。ピースが小さいだけでなく、両面に同じ柄が印刷されており、どちらが表か裏か分からないため非常に難易度が高いパズルだそう。温泉も好きで、気が向くと近郊の温泉にクルマや鉄道で出かけ、日帰りで帰ってくるという。お気に入りは埼玉県・熊谷にある"花湯スパリゾート"。天然温泉の源泉かけ流しのお湯と広々とした空間で一日のんびりとリラックスして過ごしている。

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