SUBARUが生まれる現場レポート「わたしたちがSUBARUです」
SUBARUのドライビングフィールをつくり込む、実走評価をするエンジニアたち。
メーカーを知る | 2025/01

SUBARUには、さまざまな部署、さまざまなグループ、職務があり、そこに携わる一人ひとりの取り組みが実を結び、新しいクルマ、新しいサービスは生まれています。SUBARUの想いを実際の仕事の現場を訪ねて、お伝えします。


- 株式会社SUBARU 技術本部
車両運動開発部 車両運動開発第二課 -
スバル研究実験センター(SKC)の広大なテストコースに拠点を置く車両運動開発部。「技術者全員がテストドライバー」を理想とするSUBARUの、走り味をつくり込む精鋭部隊だ。技術者たちの実走試験スキルを鍛えるスバルドライビングアカデミーにも関わる。おもに車体関係の運動性能をテストし、第二課では「操縦安定性」と「乗り心地」を担当。他の課にも、腕利きの「走るエンジニア」たちが揃っている。
※第一課:品質、第二課:操縦安定性/乗り心地、第三課:ブレーキ、第四課:騒音振動関係/法規対応、第五課:騒音振動関係/パワートレーン
操縦安定性と乗り心地、二律背反するテーマの両立に取り組む
アイサイトなどの先進技術が目を引く一方で、SUBARUには「愚直なまでに走り込む自動車メーカー」というイメージがある。実際に評価能力の高いドライバーが各部署に揃っていて、スバルドライビングアカデミーなど社内ドライバー育成も充実しているが、その主要メンバーも多く在籍し、市販車の「走る曲がる止まる」や静粛性の開発に携わるのが車両運動開発部だ。

「技術者が机上だけで図面を引くのではなく、自ら走って実感しながらクルマをつくっていくのがSUBARUの社風なのですが、やはり最後の仕上げとしてプロフェッショナルな実走評価も必要になります。その部分を担保するのが僕ら車両運動開発部で、同時にスバルドライビングアカデミー等を介して、技術者たちの運転スキルの底上げにも関わっています」。スバル研究実験センター(SKC)の広大なテストコースを自分の庭のように走りながら、27歳の彌吉崚太はそう語る。

SUBARUでも精鋭の実走評価エンジニアが揃う車両運動開発部で、若くして実走評価を任される彌吉は、所属する第二課の職務である「操縦安定性と乗り心地」の実走試験を、「『動かしたい』と『動かしたくない』という相反するテーマ」と表現する。「他のメーカーではサスペンション、ステアリングなどコンポーネントごとに開発を分担する場合もありますが、SUBARUは運動性能として、同じ部署で総合的に取り組んでいます」。

例えばクロストレックのストロングハイブリッド搭載モデルにも採用されるリヤダンパーのチェックバルブスプリングは、ダンパーを動き出しからしっかり効かせることで、ふらつきの無い安定した乗り心地を実現するとともに、ステアリングを切った瞬間の車体がロールし始める動きも安定するため、正確なハンドリングと操縦安定性にも寄与していると言う。ダンパーで動きを制御することが、クルマ全体の動きの良さにも繋がる。セッティングの奥深さを感じる話だ。


進歩した測定技術を人の感覚に落とし込めるか
例えばSUBARU車の共通の車台であるスバルグローバルプラットフォーム(SGP)は、ステアリング操作に対する車体の挙動のタイムラグを1000分の1秒単位で計測し、運動性能を追求している。進歩した計測技術による数値と、実走テストの人の感覚が食い違うことは無いのだろうか?
「それはありますね。いくら数値が良くても、人の感覚が微妙な違和感を感じ取ってしまうこともある。その原因は状況を整理して徹底的に追求し、そこから新たな知見を得て次期車にもフィードバックしていく。その積み重ねですね」。
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人の感覚といっても、ユーザーの感覚や運転操作はさまざまで、環境や用途も異なる。「友人のクルマに同乗したり、あるいはゲームで運転しているのを見ても、やはり一般のドライバーは、ステアリングを切り始めるタイミングが遅すぎ、動かすスピードは速すぎと感じます。人によって運転のしかたもさまざまなので、ハンドルを切るスピード、角度も変えながら、多様なお客様の運転を再現する技術も必要ですね」。スバル研究実験センターの高速周回路には、アウトバーンや北米のハイウェイを再現した舗装路面もあるが、それらを長距離走行を想定して片手運転するなど、海外も含めた多彩な環境での実走試験が行われている。

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同じ部品を使っていても仕上げで差が付くのがクルマ
「クルマの仕様や部品を決める段階から開発に関わり、それらが決まってからも、最後の最後まで仕上げのセッティングにこだわる。それもSUBARUの特徴だと思います」。
それはダンパーの調整やバネレートの変更、電動パワーステアリングの制御定数の変更など、非常に細かい作業だが、同じ部品を使っていても、細かいセッティングでクルマはガラッと変わると言う。
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「技術者たちが自らステアリングを握って確かめながら、SUBARUのクルマはつくられていくのですが、それを取りまとめる実走試験というのは、お客様が実際に感じるのと同じことを僕らも感じている。お客様に一番近い所で、『これでお客様にお出ししよう』という部分を任されているので、そこにやりがいとプレッシャーもありますね」。
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試乗は「動き始め」「曲がり始め」を意識して欲しい
クルマの造り手の立場で、操縦安定性と乗り心地へのこだわりを語ってくれた彌吉だが、最後に、受け手である我々ユーザーは、どんな意識で試乗すればいいのかを聞いてみた。
「いいクルマは『動き始め』『曲がり始め』からわかります。この第一印象がまず大事で、次に挙動のリニアリティ(正確さ)が続く。それはテストコースで限界走行をしなくても、店頭でスッとクルマを動かした瞬間に感じることができます。試乗コースにはさまざまなシチュエーションが用意されていて、いろいろなことを試せますが、意外と見過ごされがちな『動き始め』『曲がり始め』を、まずは意識して欲しいですね」。
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多い時は実走試験で一日700㎞を走り込むという彌吉が、最初の数ミリ数センチの動きに着目しているのは興味深い。それもまた、走り込まないと見えてこないクルマの本質なのだろう。その鋭敏な感覚に、「走り込みのSUBARU」を象徴する車両運動開発部の矜持が見える気がした。
実走試験エンジニアが語る、最新の車体メカニズム
クロストレックにも採用される2ピニオン電動パワーステアリングは、ステアリングからの入力とモーターによるアシスト出力を分けることで、リニアでなめらかな操舵トルクの伝達を実現している。実走試験の印象としては「ステアリングの切り出しから手応えを感じられるダイレクトな操舵感で、ハンドレスト(舵のすわり)が良くて切ったステアリングを外力で戻されにくいので、より正確なコーナリングが可能です」との事。
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「『ダンパーは効かせない方が、サスペンションが柔らかくなって乗り心地がいい』と思われがちですが、最新の知見では動き出しからしっかり効かせた方がいいですね」。と語るのは、彌吉の同僚の鈴木達朗(下の写真左)。ダンパーセッティングのエキスパートとして、電動パワーステアリングを得意とする彌吉と意見を交わす事も多い。クロストレックのストロングハイブリッド搭載モデルに採用されるリヤダンパーは、ダンパーを動き出しからしっかり効かせるチェックバルブスプリングの他、ダンパーロッドを延長して横力を受けた際のフリクションを抑え、スムーズな作動を安定して維持している。
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
- 彌吉 崚太(やよし りょうた)
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技術本部 車両運動開発部
車両運動開発第二課 第1操安乗心地担当1998年広島県生まれの27歳。呉工業高等専門学校 機械工学科を卒業し、クルマ好きの機械好きが高じて新卒20歳で入社。「実際にクルマを運転する仕事」を希望して、車両運動開発の前身である車両研究実験第一部の第二課に配属された。高専時代は自動車部でゼロハンカーレース等にも出場し、入社後はSUBARU BRZでラリーに参戦していた時期も。主にフォレスター・インプレッサ・クロストレックのEPS(電動パワーステアリング)を中心に、走る曲がる止まるの「曲がる」をテーマに操縦安定性と乗り心地を担当。「若手にも責任ある仕事を任せてもらえるのも、SUBARUのいい所ですね」と語る、実走試験エンジニア精鋭部隊生え抜きの若手ホープだ。
Photographs●田丸瑞穂
※こちらの記事は2025年冬号に掲載した内容です。
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