メーカーを知る

歩行者への思いやりに満ちた

クロストレックの歩行者保護エアバッグ

メーカーを知る | 2024/08

カートピア cocosuba | SUBARU
カートピア ワイパーの下辺りの歩行者エアバッグが格納されている箇所を指し示す株式会社SUBARU技術本部の相内 勇人さん | SUBARU

歩行者保護のメカニズム


日本の死亡交通事故全体のうち、歩行者が占める割合は約35%です。SUBARUは、2030年に死亡交通事故ゼロを目指しており*1、歩行者保護に関しては、まず、事故が発生した際に歩行者に死亡へ至る重大な傷害を負わせないような開発をしています。歩行者とクルマが衝突した場合、歩行者は足から腰、そして胸から頭部へと、クルマの外郭に沿うようにぶつかっていきます。このうち、特にクリティカルな傷害が発生するのは頭部です。固い部分にぶつかってしまうと傷害値が大きくなってしまうため、ボンネットフードにはできるだけ固い部分を作らず、騒音や振動、品質に影響を及ぼさない範囲で柔らかい素材を使っています。フードの下には衝撃吸収に必要な空間を設け、フードインナ―は、上部から強い衝撃が加わった場合には変形しやすい構造とし、エネルギーを吸収します。それでも、フロントガラスを取り囲むAピラーと呼ばれる柱や、ボンネットフードの後端部、窓下エリアは、クルマの骨格として重要な部分であるため、どうしても柔らかくすることができないのです。そこで、SUBARUではこの固いエリア全体をカバーする歩行者保護エアバッグを採用しました。今回、2023年度の自動車アセスメントで最高得点を獲得し、ファイブスター大賞を受賞した背景の一端には、この歩行者保護エアバッグの存在があります。

*1 SUBARU車乗車中の死亡事故およびSUBARU車との衝突による歩行者・自転車などの死亡事故ゼロを目指す。

カートピア ボンネットフードの裏側。補強のための骨格の峰を断つように切り欠きが設けられている | SUBARU
ボンネットフードの裏側。補強のための骨格の峰を断つように切り欠きが設けられています。この切り欠きがきっかけとなって上部からの衝撃に対して骨格が変形します。
カートピア ボンネットを開いた様子。裏側に衝撃吸収に必要な空間がある | SUBARU
ボンネットフードの下には衝撃吸収に必要な空間があります。フェンダーを支えているパーツも、上部からの強い衝撃に対しては変形するような構造としています。
カートピア クロストレックのフロントガラス下部辺りに広がる歩行者保護エアバッグ | SUBARU
ボンネットフード後端部から左右のAピラーにかけて、固い部分にはエアバッグが展開して歩行者の頭部への衝撃を緩和します。

ファイブスター大賞受賞を決めた、衝突安全性能の決定打


2023年度NASVAの歩行者保護の評価は、歩行者脚部保護と歩行者頭部保護の評価が行われました。公開されている評価結果を見ると、脚部保護においてはほぼすべての車両が100%の結果を得ているのに対し、頭部保護ではクロストレックが92%でトップ。次に高い評価を得た車両は83%で、他の車両は概ね60~70%代の結果となっています。今回試験を受けた車両ごとに詳しい内容が掲載された頁では、「歩行者頭部保護性能試験結果」として、図1のようなグラフを見ることができます。これは、クルマのボンネットフードを真上から見た図版で、下が車両前部、上がグラスエリア、上部左右の凸部はAピラーの付け根付近を示しています。枠はひとマス100㎜ピッチに区切られており、試験では頭部を模した直径165㎜の“インパクター”という球状の測定装置を、時速40㎞の速度でこの枠にぶつけて、インパクター内部にある3軸の加速度計で計測した加速度を合成した平均値で頭部への衝撃度合いを評価します。インパクターの重量は大人を想定した4.5㎏と子どもを想定した3.5㎏の2種があり、身長を考慮して4.5㎏の方は水平から65度の角度で、3.5kgの方は同じく50度の浅い角度でぶつけます。マスの色は、そこにインパクターをぶつけた結果を5段階に分けて表現したもので、傷害が軽微なグリーンから、黄色、オレンジ、茶色と徐々に傷害値が大きくなり、赤は歩行者の命に係わるような重篤な傷害を及ぼすほどの傷害値を示しています。クロストレックではどこのエリアにも茶色や赤はありませんが、他の車両は上部エリアを中心に茶色や赤があり、これが最終的な評価点の差となって表れています。

カートピア クロトレックの歩行者保護性能評価結果(2023年度) | SUBARU
図1(提供:(独)自動車事故対策機構)

人の命を守る最後の砦


万が一の人との衝突の際に頼りになる歩行者保護エアバッグですが、ユニットのサイズが大きく、搭載スペースを確保するのが困難であることや、高価な装備であること、また、フロントバンパー内部に歩行者との衝突を検知する圧力チューブを配置するため、フロントデザインに制約が生じてしまうことなど、いくつかの課題があります。SUBARUでは2016年に新たにスバルグローバルプラットフォームを導入したインプレッサで、開発初期から歩行者保護エアバッグ採用を前提に開発を進め、初めて採用しました。

アイサイトのような予防安全技術が進歩した現在、歩行者との衝突事故のために高価な装備を採用してコストを上げることを避けるという考え方もあります。とはいうものの、他国と比べて歩行者や自転車との接触事故が多い日本では、万が一の際に人の命を守る最後の砦となるのが歩行者保護エアバッグなのです。国内では他に採用事例がありませんが、2030年に死亡交通事故ゼロを目指しているSUBARUならではの装備といえるでしょう。現状に甘んじることなく、今後は、従来からの延長線上にはない、新しい発想の歩行者保護性能の作り方も考えていきたいと思います。

背が低い人の方が早く浅い角度でぶつかるため、エアバッグ格納時の折りたたみ方を工夫し、展開時にはボンネットの前端に近い方から膨らみ始め、全体が展開してから一定時間同じ内圧を保って展開状態を維持します。展開後、エアは布の縫製面から自然に抜けていくため、瞬時に展開して内圧を強制的に抜く車内のSRSエアバッグのように煙は出ません。

提供:(独)自動車事故対策機構

脚部保護性能は、歩行者の脚を模したインパクターをフロントに当てて衝撃を確認します。(JNCAPの歩行者脚部保護性能試験は、歩行者保護エアバッグへの信号をカットして実施しています)

提供:(独)自動車事故対策機構

カートピア 歩行者の脚部との衝突を検知する部品構成の図解 | SUBARU
歩行者の脚部との衝突を検知する部品構成。バンパー内側に配置された圧力チューブに特定の衝撃が加わると、圧力センサーがエアバッグECUに信号を送り、歩行者保護エアバッグを展開します。エアバッグECUは、SRSエアバッグなどエアバッグすべてを制御します。

今月の語った人

カートピア 株式会社SUBARU 技術本部 車両安全開発部 衝突安全第三課の相内勇人さん | SUBARU
相内 勇人(あいうち はやと)

株式会社SUBARU 技術本部
車両安全開発部 衝突安全第三課

北海道札幌市生まれ。海へも山へも自転車で30分ほどで行ける環境で育ち、冬はスノーボードとスキー、短い夏はビーチでキャンプやバーベキューをして過ごした。今もアウトドアアクティビティが好きで、群馬、新潟、富士山周辺のキャンプ場に仲間やソロで出かけてキャンプを楽しんでいる。ここ3年は仲間と一緒に大晦日から元旦を新潟の三条にあるスノーピークのキャンプ場で過ごしているそう。人も少なく、空気が澄んでいて星がきれいに見えるのが冬キャンプの魅力とのこと。コットがあれば、雪の上でも快適だそう。キャンプを楽しむコツは2泊以上のプランを立てること。1泊だと慌ただしく過ごしているうちに終わってしまうため。キャンプでのお薦めのレシピは唐揚げ。使用後の油を処理するための処理剤さえ用意しておけば、好きなものを揚げたてで手軽に食べられるのが魅力。

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