大きいサイズのクルマを運転するのは少し緊張するといったことや、自分ではうまく運転できているつもりなのに、同乗者がクルマ酔いしてしまったなどの経験はありませんか。
そんな運転の悩みを解消すべく、今回はスバルドライビングアカデミー(以下SDA)指導のもと、実際にSDAで行なわれている講習の一部をスバルスターズの佐藤あかりさんと平澤果歩さんが体験しました。
「基礎編」と「上手な運転編」の2つに分けて、普段の運転でも実践できる運転のコツを紹介します。
体験の様子は動画でもご覧いただけます!
本井雅人 スバル研究実験センター センター長
1991年に入社。アルシオーネSVX以降、ブレーキやトランスミッションなどの開発に従事。「スバルドライビングアカデミー」創設にも携わり、現在は運営を担当。
佐藤あかり
スバルスターズ*2年目。運転頻度は1年に数回程度で、主に家族や友人とお出かけの際に運転。
平澤果歩
スバルスターズ*1年目。運転頻度は半年に1回程度で、駐車が苦手。
目次
SUBARUには、クルマの評価を専門で担当するテストドライバーという職種は存在しません。クルマを運転して評価するのも、その評価結果から理論的思考を導き出して物理に落とし込んでいくエンジニアが担当します。その根底には、「ドライバーの評価能力以上のクルマはつくれない」という考えがあります。そのためには、エンジニア自身がクルマを運転して、評価できなければなりません。エンジニアの運転スキルと評価能力を高める人材育成の取り組みとして2015年9月に創設されたのが、スバルドライビングアカデミー(SDA)です。
SDAでは、フィーリング、初級、中級、高速、特殊といった5段階のライセンスが設けられ、ライセンスに応じて走行速度や評価内容の領域が決められています。また、社内で行なっている一般的な運転体験教育の受講者とSDAのフィーリングライセンス取得者の事故率を比較すると、フィーリングライセンス取得者の事故率は約1/5に減少しました。基礎編、上手な運転編では、このフィーリングライセンスで行なっているカリキュラムの一部を教えていただきます。
新型レガシィ アウトバックの上質さや洗練されたデザインがお気に入りという佐藤あかりさんですが、運転するとなると「ボディサイズの大きさがちょっと不安」とのこと。そこで、まずはクルマに馴染んでいただくために、運転の基本となるドライビングポジションを身につけた上でアウトバックの車両感覚をつかんでもらいました。
「認知」→「判断」→「操作」を繰り返し行なうのがクルマの運転です。「認知」は視覚からの情報が大半を占めるため、視点がブレないこと=ハンドル操作をしても上半身が動かないことが大切です。ドライビングポジションを正しくとる大きな理由はそこにあります。また、正しいドライビングポジションをとっていれば、万が一の状況に遭遇したときでも的確なブレーキ操作やハンドル操作をすることができます。
ドライビングポジションの合わせ方
①シートと腰の間に隙間ができないように深く座る。
POINT
腰をシートバックと座面の角に落とし込むようなイメージで座ります。
②ブレーキペダルを奥まで踏み込んだときに膝が伸びきらないように、座面の前後位置を調整します。
③両手でハンドルの上部を握ったときに、肘が伸びきらないようにハンドルとシートバックの位置を調整します。
POINT
肩とシートバックの間に隙間が無いかチェック。
④ハンドルを9時15分の位置で握ります。
POINT
親指をハンドルの内側に軽く添えて、親指の付け根のあたりで前方に押すイメージで。
⑤ハンドルを前方に押す反力で背中をシートに押し付けて上体を固定します。
直進や大きくハンドルを切らない緩やかなカーブでは、左右の手のひらを押しつける力の配分を変え、押し上げるようにしてじわっと操作します。
POINT
押しでなく引き側で操作すると、上半身が前方に引っ張られるので正しいドライビングポジションをキープしづらくなります。
シートバックとハンドル位置の調整。ハンドルの上部を握ったときに肘が伸びきらず、シートバックと肩との間に隙間ができない位置に調整しましょう。
クルマの前端や左端の位置はなかなかイメージしづらいものですが、これが把握できると狭い道でのすれ違いなどでどこまでクルマを寄せればよいのかが分かり、車庫入れやクランク走行なども安心して行なうことができます。
①駐車場などの広いスペースで誘導してもらい、フロントと左側のラインにぴったり合わせて駐車します。
②その状態で、運転席に正しいドライビングポジションで座り上体をシートに固定します。
③頭を動かさずにフロントのラインとクルマが重なる位置(右側ドアの窓肩)、左側のラインとクルマが重なる位置(ダッシュボード奥)に目印を付けます。
④目印とラインとが重なるように止めれば自力でラインに合わせて駐車することができます。
SDAのカリキュラムにはないのですが、今回は初心者ドライバーが苦手意識を持っている車庫入れとクランク走行のコツを教えていただきました。
車庫入れはできるだけ駐車しようとするスペースにクルマを寄せることと、左側後輪の位置をイメージしながら後退するのがコツです。アウトバックはギヤをリバースポジションにするとサイドミラーが自動的に下向きになってラインを確認できるので便利です。
①クルマを駐めたい方向に寄せます。
POINT
駐車スペース前端から50cm〜1m程度
②目標の駐車スペースの左端のラインのあたりに左側サイドミラーが重なったらハンドルを大きく右に切り、角度を付けます。
POINT
左側に駐車車両があれば、左側サイドミラーにその車両の右側先端(上図の赤丸部分)が見えて自車との間に間隔が見えるようになる位置まで前進します。
③左側後輪の位置をイメージしながら、後輪が駐車スペースのライン先端をなめるようにゆっくり後退します。
POINT
後退時には右側の車両や周囲の歩行者などにも注意しましょう。
④左右のミラーを確認して自車がラインと平行になったらハンドルを戻して後退します。
⑤駐車スペースの中で、枠の中央からずれたり、斜めになったりした場合は前進しながら位置を修正します。
POINT
後退するときはハンドルを切らずまっすぐに。
スバルドライビングアカデミー講師
車両運動開発部 車両運動開発第二課 課長 伊藤 和広
スバルドライビングアカデミー講師
車両運動開発部 車両運動開発第二課 課長 伊藤 和広
教習所にあるのと同じ3.5m幅のクランク走行に挑戦しました。このような狭い道でのハンドル操作は、車両の先端と内輪差を確認してゆっくりと行なうことが重要です。アウトバックは視界が広く、ボンネットの先端をイメージしやすいデザインになっているため、安心して操作できます。
①クランクにアプローチする前に道幅をいっぱいに使って内輪差のためのスペースを作ります。
POINT
左に曲がる場合は右側いっぱいに幅寄せします。
②クランク入り口のカドがサイドミラーを過ぎたあたりからハンドルをいっぱいに切り始めます。
POINT
クルマの動きにハンドル操作が遅れないように車速は抑えめにします。
③自車の前端と内側後輪の位置を意識しながら前進します。後輪の位置はサイドミラーで確認しましょう。
POINT
内側後輪がクランク入り口のカドを通り抜けてもハンドルは戻さず、次の操作に備えて道幅いっぱいまで幅寄せします。
④ハンドルを戻して前進し、次のクランク入り口のカドがサイドミラーを過ぎたあたりでハンドルをいっぱいに切り始めます。
POINT
内側後輪がクランクのカドを無事に通り過ぎたらハンドルを戻してクランクを抜けます。
基礎編のメニューを練習して、アウトバックの車両感覚や取り回しの感覚がある程度ついてきたところで、ワンステップ上の“上手な運転”のテクニックを学びました。“上手な運転”の目安は、助手席や後席の人の身体を動かさず、不安や不快感を与えない運転です。その基本となるのが加速度変化の少ないなめらかなブレーキ操作とハンドル操作です。ここではSDAカリキュラムからその2つの重要項目を学んだあと、前走車との間に安全な車間距離をとりながら一定の速度で追従していくコツも教えてもらいました。
信号が赤に変わって停止する時のように、止めたい場所までなめらかな減速をするコツは途中でブレーキを踏み増したり戻したりすることなく、減速度≒ブレーキを踏む力を一定にすることです。今回はスバルスターズの佐藤あかりさんが時速40㎞からのブレーキングに挑戦しましたが、最初は減速しすぎて途中でブレーキを緩めるような不安定な操作となってしまいました(下グラフの黄緑色のライン)。グラフのブルーのラインで減速することをイメージしながら、何度か練習を繰り返すうちにコツがつかめてなめらかなブレーキングができるようになりました。
■アクセル、ブレーキの操作の基本
・かかとをフロアにつけ、親指の付け根付近で踏み、足首を使って「ジワーッ」と操作する。
・ペダルの踏み換えは、かかとをフロアにつけたまま行なう。
下図(左)は極端な事例ですが、クランク上の道を通過するときの走行ラインを3パターンのラインで示したものです。俯瞰してみれば③がスムーズとわかります。ところが実際に路上を走っているとむしろ②や①に近い動きをしています。それは視線を手前に置いてハンドル操作をしているからです。できるだけ遠くを見て運転操作に必要な情報を正しく認知することが大切です。得られた情報を踏まえてハンドルの切り出しタイミングを早く、操作はできるだけゆっくりと行なうことで加速度変化の少ないなめらかな運転をすることができます。今回は下図(右)のようなコースを走ることで、できるだけ視点を遠くに置いて運転する練習をしました。
POINT
できるだけ視点を遠くに置き、ハンドルはジワーッと操作しましょう。
運転中はクルマが狙い通りの動きになっているかを常に確認して次の操作に活かしましょう。運転のPDCAを常に行なうことで運転に集中でき、漫然運転を避けることができます。
前走車が通り過ぎた目印のあるポイントを決め、そこに自車が到達するまでの間を常に一定の間合いにキープする。「ゼロ、イチ、ゼロ、ニ」と数える間合いが適正。