開発ストーリー

アイサイト 篇

開発チームが語る!
アイサイトへの想いと歴史

※この開発ストーリーは、2020年8月に掲載されたものです。

開発チームが語る!

アイサイトへの想いと歴史

先進安全設計部 担当部長 兼 自動運転PGM PGM 柴田 英司、先進安全設計部 主査3 主査 兼 自動運転PGM 主査 丸山 匡、先進安全設計部 主査3 主任 金井 聡吾、車両研究実験第四部 車両研究実験第3課 主任 青山 裕紀 先進安全設計部 担当部長 兼 自動運転PGM PGM 柴田 英司、先進安全設計部 主査3 主査 兼 自動運転PGM 主査 丸山 匡、先進安全設計部 主査3 主任 金井 聡吾、車両研究実験第四部 車両研究実験第3課 主任 青山 裕紀

先進安全設計部 担当部長 兼 自動運転PGM PGM 柴田 英司
先進安全設計部 主査3 主査 兼 自動運転PGM 主査 丸山 匡
先進安全設計部 主査3 主任 金井 聡吾
車両研究実験第四部 車両研究実験第3課 主任 青山 裕紀

〈 2030年までに死亡交通事故ゼロを目指して 〉

そのキーテクノロジーとなるのが、アイサイトです。
そこで、歴代のアイサイトを開発してきたエンジニアが、開発時のエピソードやSUBARUが情熱をかけてきた
安全へのこだわりとともに、新世代アイサイトの進化について語りました。

1999年 -
アイサイトの前進となる「ADA」が誕生

柴田 アイサイトの特徴であるステレオカメラを使った安全技術の開発は、1990年代にスタートしました。しかし、実を言うと、ステレオカメラは安全技術のために開発したものではありませんでした。当時は、各自動車メーカーがこぞって「ASV(アドバンスド・セーフティ・ヴィークル=先進安全自動車)」を開発していた時代で、SUBARUはエンジンの燃焼を可視化する技術として1989年に開発していたステレオカメラをASVに応用したんです。

そして、「独自の技術で安全を作っていこう」とステレオカメラを使ったシステムの研究を続け、10年をかけて製品化を実現しました。それが1999年にレガシィランカスターに設定した「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」です。このADAには「車間距離警報」「車線逸脱警報」「車間距離制御クルーズコントロール」「カーブ警報/制御」という今のアイサイトにつながる4つの機能を搭載しました。

アイサイトの前進となる「ADA」が誕生_画像01

2003年には、ステレオカメラにミリ波レーダーを加えたシステムに進化しましたが、価格が高かったことから販売台数では大苦戦……。コストを抑えるため、2006年にはステレオカメラを搭載せず、レーザーレーダーを使った「SI-Cruise」を発売し、ステレオカメラを使ったシステムは一旦、表舞台から去る形となりました。でも、「ここまで培ってきたステレオカメラを使った技術をモノにしたい」「お客様のためになる技術を磨きたい」という想いは強く、水面下で研究開発を進めていたんです。

アイサイトの前進となる「ADA」が誕生 当時の開発イメージ

当時の開発イメージ

2008年 -
安全へのこだわりがアイサイトへと結実する

柴田 正直なお話をすると、当時、販売面で成功しなかっただけに開発費はかなり削られました。そんな中で開発を続け、ステレオカメラ単体でアイサイトの原型になる機能を搭載した試験車両が完成し、プリクラッシュブレーキなどが作動する動画を撮影したんです。それを社内でプレゼンして、ようやく量産に向けた開発が始まりました。コスト面でも性能面でもまだまだ目処が立たない中でしたが、「これをモノにするんだ!」と会社に啖呵を切って開発を進めたことを覚えていますね。

丸山 ステレオカメラの画像認識だけで性能を上げることは難しく、開発当初はレーザーレーダーを使った「SI-Cruise」に性能面で負ける部分もありました。雨が降ったりガラスが曇ったりすると、正常に検知できないことが多くあったんです。立ちはだかる壁は大きくて「このシステムはモノになりません」と、柴田に報告を上げたこともありました……。

それでも、さまざまなシーンを走り込んで改修を行った結果、課題をすべてクリアすることができて、自信を持ってお届けできるシステムができました。画像認識と制御、どちらも社内で開発していたことは、大きな強みになりましたね。

安全へのこだわりがアイサイトへと結実する_画像01

柴田 そして2008年に発売したのが、世界で初めてステレオカメラだけで「プリクラッシュブレーキ」や「全車速追従機能付クルーズコントロール」を実現したシステム「アイサイト」です。まずはレガシィに搭載しました。今だから話せますが、発売時点でもまだ「問題が出たらどうしよう」「もう自分はクビかもしれない」とヒヤヒヤしていましたよ。おかげさまで評判もよく、ホッとしました。

安全へのこだわりがアイサイトへと結実する_画像02

2010年 -
完全停止を実現したVer.2でSUBARUの代名詞へ

丸山 Ver.2では、プリクラッシュブレーキを完全停止までサポートするよう進化させました。性能そのものはVer.1でもかなり高いレベルにあったので、システムそのものの開発はスムーズにいきましたが、日本で初めてのシステムでしたので安全性の検証だけでなく、官庁への安全性の考え方の説明にかなり時間をかけて進めました。

柴田 安全に関わるものなのでさまざまなリスクを考えて設計していることをお伝えしながら議論を重ね、結果的に、SUBARUの考えをよく理解していただけて、実現することができました。

丸山 もうひとつ、Ver.2の大きなポイントは、10万円という低価格の実現です。それまでアイサイトのために追加していたブレーキデバイスをVDCと共用することで実現したのですが、それによってディーラーさんもお客様に勧めやすくなり、アイサイトの知名度や普及率を大きく高めることにつながりました。採用車種が増え、ほとんどのモデルで装着できるようになったのもこのころです。

完全停止を実現したVer.2でSUBARUの代名詞へ_画像01

柴田 アイサイトの海外展開も、このVer.2から始まっています。2011年にオーストラリア、2012年に北米、さらに中国……と採用エリアを拡大していきました。単に同じものを輸出すればいいのでなく、地域に合わせたチューニングが必要で、特に北米への展開では苦労しましたね。

丸山 そうですね。たとえば、サンフランシスコは急な坂が多く、路面のペイントも多い。すると、それが障害物だと認識されて、プリクラッシュブレーキが作動してしまうんです。そうした課題を、ソフトウェアチームががんばって改善してくれました。

2014年 -
Ver.3、そしてツーリングアシストへと進化

丸山 Ver.3ではステレオカメラの視野角・視程を40%向上させ、同時にCMOSカメラ採用によるカラー化を行ったことで、基本性能を高めました。カメラのカラー化によって、先行車のブレーキランプを認識できるようになり、より自然で素早いブレーキ制御が可能となっています。

柴田 また、ステアリング制御を導入したことも、Ver.3の大きな特徴のひとつです。「車線中央維持機能」と「車線逸脱抑制機能」を実現しました。ステアリング制御はかなり前から開発を始めていて、Ver.3でようやく形にすることができました。このときのステアリング制御は、65km/h以上で作動するものでした。

Ver.3、そしてツーリングアシストへと進化_画像01

丸山 それをさらに進化させ、0km/hまで作動範囲を広げたのが、2017年発売のアイサイト・ツーリングアシストです。基本的には区画線を認識して中央維持するように制御しますが、渋滞で区画線が見えにくい時や区画線がかすれてしまっていて制御に使えない場合に、先行車の走行軌跡をついていくようにステアリング制御をすることで、幅広いシーンでアシスト走行を可能にしました。

金井 私はツーリングアシストからアイサイトの開発に参画したのですが、開発初期のプロトタイプは、走行シーンによってステアリングの動きがカクカクとした印象があって、不自然な挙動が出ることもありました。それをいかにドライバーの感覚に近い、乗っていて違和感のないものにするかを目標にしましたね。ここはかなり時間をかけてチューニングして仕上げていきました。

Ver.3、そしてツーリングアシストへと進化_画像02
Ver.3、そしてツーリングアシストへと進化_画像03

金井 たとえば急カーブでは、カーブを正しく認識することはもちろん、そのカーブを「どう走らせるか?」も重要です。フラフラしたり余計なハンドル操作が多かったりすると、ドライバーに「怖い」と感じさせてしまうので、スムーズで不安を感じさせない走りにすることが必要となります。車線や区画線が薄れている道路の検知や、インターチェンジに向かって分岐する部分の車線の認識や判断も難しい部分です。

2020年 -
新型レヴォーグでアイサイトは次の世代へ

青山 今回の新世代アイサイトは、「量販価格で高級車以上の機能を実現する」をコンセプトに機能を作り込みました。開発に際しては、制御はもちろんですが。ドライバーにどのようにクルマの状態を伝えるのかも苦慮した部分です。そして走行試験を重ね「リアルワールドで安心して使える機能」を追求して、改善点を見つけては改修し、その確認をしてさらに課題を見つけて……、という作業を金井と連携して進めていました。

新型レヴォーグでアイサイトは次の世代へ_画像01

丸山 今回の開発から金井に制御開発のリーダーをやってもらいました。結果として非常にいいものに仕上がっています。青山が話した「量販価格で高級車以上の機能」は十分に達成されていて、量産車の領域では「世界一使えるもの」になったと思います。

新型レヴォーグでアイサイトは次の世代へ_画像02

開発に込めたお客様への想いとメッセージ

金井 新世代アイサイトは、一つひとつの高い技術が凝縮されたシステムです。違和感なく自然で、誰が乗っても上手に安心してクルマをコントロールできる。ドライバーの運転の負担を最大限に減らせるものができたと思います。「より遠くまで、より早く、より快適に、より安全に」というSUBARUのグランドツーリング思想をさらに磨き上げた、自信を持ってお届けするシステムです。

青山 これまでのアイサイトをご利用の方もアイサイトを初めて乗られる方も、今までに体験したことのない機能に感動していただけると思いますので、新型レヴォーグ発売の際には、ぜひ乗ってみてください。

開発に込めたお客様への想いとメッセージ_画像01

丸山 新型レヴォーグの開発責任者を務める五島PGMは、「今までとは次元の違うクルマができた」と言っているのですが、それはアイサイトに関しても同じです。ステアリング制御の質感が各段に滑らかで安心なものになり、乗ってすぐに「良くなった」とわかるレベルになっています。新型レヴォーグに乗っていただくと、きっと驚いていただけるでしょう。

柴田 最初のアイサイトが出てから12年、Ver.2が出てから10年。SUBARUはステレオカメラにこだわって、人間の目と脳に限りなく近づけてきました。手でコツコツと組んできたソフトウェアの根幹は今も変わらず、「10年目の成果」だと思っています。新世代アイサイトでは、車両の四隅にレーダーを付けて、全方位を検知するものとなりましたが、そのコア技術は、今もステレオカメラです。長年、積み重ねてきた技術を、ぜひ体験していただけばと思います。